2017-06

3・1(日)ヴィヴァルディ:オペラ「メッセニアの神託」

    神奈川県立音楽堂  3時

 神奈川県立音楽堂が開館60年を記念して企画主催した「音楽堂バロック・オペラ」、今回のヴィヴァルディの「メッセニアの神託」は大成功。

 名匠ファビオ・ビオンディが、いわゆる「ウィーン上演版」(1742年)を再構成してまとめたものだそうだが、ヴィヴァルディの音楽が持つドラマティックな迫真性、リアルで巧みな標題的描写力は物凄く、正味3時間近くになる長大な3幕オペラが、息もつかせぬ迫力で蘇っていた。
 もちろん、いわゆる「パスティッチョ・スタイル」━━他人の曲も一部取り込んでの構成によるオペラだが、しかし編曲や、前後の曲との結合などの構築は、ヴィヴァルディならではの手法が使われているはずである。

 ビオンディ自らヴァイオリンを弾きつつ指揮するエウローパ・ガランテの演奏も、実に生き生きして張りがあって、ヴィヴァルディのオーケストラの雄弁な表情を、余すところなく再現してくれる。まさに胸のすくような、鮮やかな演奏だ。

 それにまた、今回の出演の歌手たちの、巧いことといったら! 男声歌手は暴君ポリフォンテ役のマグヌス・スタヴランのみで、あとは男役を含め、すべてメゾ・ソプラノ歌手━━マリアンヌ・キーランド、ヴィヴィカ・ジュノー、マリーナ・デ・リソ、ユリア・レージネヴァ、フランツィスカ・ゴットヴァルト、マルティナ・ベッリといった人たちだ。こういう見事な演奏で蘇ったバロック・オペラ━━ヴィヴァルディのオペラがいかに凄いものか、一言では言い尽くせない。

 また今回は、弥勒忠史の演出が成功していた。美術(松岡泉)と衣装(萩野緑)も凝っていて、能舞台をイメージした舞台美術には石庭や屏風が使われ、衣装も洋風と日本風(?)を役柄ごとに使い分けての設定である。
 演技の中では、特に能との関連は強調されていないが、しかし暴君ポリフォンテを歌い演じたスタヴランは、持った扇を巧みに使い、なかなか派手な見得を切っていた。この人、上背もあり、屹立すると頭が何処にあるのか判らないほどの小顔(?)なので、結構な迫力がある。聞けば、歌手たちは全員、自分たちでもいろいろ演技を工夫しながら舞台に臨んでいたのだとか。

 音楽は泰西ものだが、日本で制作した舞台は日本ならではのアイディアに充ちたもの━━これは、日本発のオペラとして考えれば、理想的な形態ではなかろうか。
 かつてヴォルフガング・ワーグナー(バイロイト祝祭総監督)やグスタフ・ルドルフ・ゼルナー(ベルリン・ドイツオペラ総監督)は、日本での二期会の「ニーベルングの指環」上演に関し、指揮していた若杉弘に「日本には歌舞伎というすばらしい舞台芸術があるじゃないか、なぜそれを応用してみたいと思わないのか」と奨めたそうだ。日本人なのだから、何から何まで西洋の物まねをする必要はないではないか、と、西洋人から逆に提案されたようなものである。W・ワーグナーは、「《ジークフリート》なんか、歌舞伎の手法を取り入れたら合うと思うよ、僕にもしテクニックがあったら、むしろ自分でやってみたいくらいだ」とも言ったという(このあたりの話は、若杉氏から直接聞いたものだ。以前にも書いた)。

 その後、若杉弘は、鎌倉芸術館での「サロメ」上演にその手法を取り入れた。私も観てすばらしいと思ったが、残念ながら、あまり話題にならずに終った。
 一方、ヴォルフガング・サヴァリッシュも、バイエルン州立歌劇場総監督の時代に市川猿之助と組んで「影のない女」を制作し、日本でも上演した。27年前のあの時、私は大感激したものである。一般のお客さんにも結構受けたようだった。が、・・・・本場嗜好の評論家からは「オリジナルの様式に合わぬ」とか、「解釈が浅薄だ」とか、酷評を蒙っていたことを記憶している。

 日本の良さが見直されはじめている今日━━今回の「メッセニアの神託」をワン・ステップとして、こういう形のプロダクションを、もっと前進させて行ってもいいのではなかろうか。

コメント

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カッコ良かった!!!

限られた時間と空間の中にチームの心意気が結実した、美しく粋な舞台でしたね。特に、衣装さんとヘアメイクさんのお名前を覚えておきたくなったのはオペラでは初めてです。王の金と茶のかさねの色目、姫の白とプリーツ使い、女王の気高い紫、王子や家臣達の凛々しい髪型。人物の位と性格を過不足なく語りかけてくれるものでした。また歌手の皆さんは歌だけなく所作も決まっていたと思います。とりわけ女王と姫が顔を後ろに向けて扇で顔を隠し王子を拒絶する場面は、一幅の絵のようで胸に響きました。

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