2017-10

1・21(水)新国立劇場 ワーグナー:「さまよえるオランダ人」(2日目)

     新国立劇場オペラパレス  2時

 2007年2月にプレミエされたマティアス・フォン・シュテークマン演出によるプロダクション。そのあと2012年3月にも上演され、今回が3度目の上演だ。指揮は飯守泰次郎。

 だがもう、この閃きのない演出は今回限りにして、次にこの作品を上演する際には、新しい演出に切り替えていただきたいものである。この演出でアイディアが見える個所は、唯一、全曲の幕切れ部分で、ゼンタの方が幽霊船とともに沈み、オランダ人が地上に取り残されるという読み替え設定の場面だけだ。堀尾幸男の美術と磯野睦の照明も、今となっては随分寂しいものに見える。
 これが地方のオペラだったら「非常に頑張っている」と称賛もできようが、天下の新国立劇場の上演水準とは言えない。

 しかし、音楽の面では、2007年のミヒャエル・ボーダー指揮、2012年のトマーシュ・ネトピル指揮の時に比べ、今回の飯守泰次郎は、最良の演奏をつくったといえるだろう。最近の指揮者がよくやる即物的なワーグナー演奏ではなく、良き時代の伝統を引き継ぐ、温かい、ヒューマンな音楽のスタイルである。

 ただ、そういうスタイルの演奏の場合には、オーケストラの弦がよほどしっかりしていないとサマにならない。その点からいうと、ピットに入った東京交響楽団は━━過去2回の演奏と同様に━━残念ながら弦が脆弱だった。
 序曲と第1幕では金管が咆哮し過ぎた感もあったが、これは弦が量感たっぷりに鳴らないため生じたアンバランスだったというべきであろう。弱音の個所では弦はふくよかな響きを出していたのだから、求められるのは,ただ力強さである。
 ホルンは、だいぶ不調のようだ。今日の演奏では、音を外したのは10回近かったのではないか? 1度や2度なら「人間のやることだから」で済むけれども・・・・。

 前回の上演で酷かった歌手陣は、今回は充実していた。おそらく、第1回上演の際に歌ったユハ・ウーシタロ、アニア・カンペ、松位浩らの歌唱に匹敵、もしくはそれを上回るする水準かもしれない。
 オランダ人役のトーマス・ヨハネス・マイヤー、ゼンタ役のリカルダ・メルベート、ダーラント役のラファウ・シヴェク、いずれも力強い声と陰影に富む歌唱表現で、それぞれのキャラクターの性格を見事に再現してくれていた。
 特にメルベートは「ゼンタのバラード」を豊かな感情をこめて歌い、飯守と東京響の神秘的で美しい演奏とともに、この日随一と言ってもいいほどの素晴らしい時間をつくり出していた。

 エリック役のダニエル・キルヒだけは、時に走り気味の所も聞かれ、存在感も今一つというところだろう。マリー役の竹本節子は落ち着きのある表現、舵手役の望月哲也は勢いで押した歌唱。

 そしていうまでもなく、素晴らしかったのは、三澤博史が率いる新国立劇場合唱団である。男声合唱は非の打ちどころがない。女声も「糸紡ぎの合唱」でいいところを聴かせたが、たったひとつ、「ゼンタのバラード」の終り近くでの最弱音のアンサンブルの個所で、ソプラノのパートにフラットな声が聞かれたことだけは惜しい。

 序曲は「救済の動機」無しの版による終結だが、第3幕最後は「あり」の版が使用される。第2幕最後の3重唱の一部にカット個所あり。第1幕を完奏する版で休憩に入る。第2幕と第3幕は連続して演奏する版だ。以上は、前回、前々回と同様である。
 終演は4時半過ぎと予告されていたが、実際にカーテンコールを終えてロビーに出て時計を見た時には、5時近かった。

コメント

満足!

25日の公演を観ました。回数を重ねて、東条先生言われるような欠点は少なくなって来ているように思えました。弦の厚みはもう少し欲しいが、2幕終盤のゼンタとオランダ人のデュエットなど、歌手もオケも迫真の運びで、ワーグナーを味わった満足感を得ました。コーラスも良くトレーニングされていて素晴らしいが、演技の面では、「日本的統一」に気を取られてか、ややモタモタした印象。これは改善を要する点かと。

ワーグナー好きの戯言かもしれませんが

オランダ人役、音程あれで良いんですか?
声量もないし残念でした。
オケもひどいですね。今どきアマオケでももっと良い音出せると思いますけど。ホルンだけでなく木管はプロのプライドをかけて本気出してください。
数年前にアマオケが飯守でやったオランダ人に負けてますよ。
合唱はホントに素晴らしかったです。
救われました。
ソリストではエリックとダーラントが出てくるとホッとしました。音程がわかるので。
演出はいつから奇をてらわねばならなくなったんでしょうか。
あの偉大な音楽の前に演出家ごときはひれ伏さねばならないでしょう。

歌劇「ゼンタ」

浅薄な物語を長々と大仰に語る、その作風が全くもって波長に合わないためワーグナーは基本的に避けている者ですが、この作品は未見かつ上演時間も短い方だったのでお勉強モードで行ってみました(28日公演)。結果、パフォーマンスが全体的に低調だったこともあり、第一幕の段階で来たことを後悔しましたが、ゼンタ=メルベートさんの登場以降は舞台とピットのテンションが脅威的に向上、彼女の声と歌の強さにすがることでこの不快な物語(LVトリアーの映画「奇跡の海」を連想)を最後まで堪え忍ぶことができました。

この作品、突き詰めれば「ルル」だと思う。搾取者と被搾取者の物語。彼らは彼女に救済だの貞節だの愛だの永遠だのを要求しておきながら、与えるものといえば嫉妬だけ、挙げ句の果ては自ら招いた不幸さえも彼女のせいにし、問題解決のための手段を何一つ打てず、ただロマンティックに嘆くだけ。勘弁してよ。なんで会社帰りのド平日の夜にこんな話に付き合わないといけないの。と半ば逆ギレしつつ、能天気な性善説ファンタジーを剥ぎ取った冷徹かつ意地の悪いブラックコメディ的な演出でなら観る価値を見出だせるかもと感じたりもしました。

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