2019-05

11・7(金)ダニエル・ハーディング指揮新日本フィルハーモニー交響楽団

    すみだトリフォニーホール  7時15分

 メッツマッハーが来年春で任期終了、ハーディングはさらに契約を延長して2016年春までの任期となったとの旨、オーケストラから発表された。
 とはいってもハーディングが振る定期は、この11月のあとは、来年7月までは無い。シェフの指揮する機会の少ないオーケストラは、どうしても不安定になりがちなもの。新日本フィルには頑張ってもらわねばならぬ。

 そのハーディング、11月の2回の定期では、マーラーとブルックナーを振り分けた。
 彼のマーラーはこれまでにもいくつか聴いて来たが(ただし2日のサントリー定期は風邪気味のため聞き逃した。今日も未だ風邪は抜けたわけではないが)、ブルックナーは滅多に聴く機会がない――。

 今回、実際に聴いたブルックナーの「第5交響曲」は、まあ、予想した通りというか、いわゆる既存のブルックナー演奏のイメージに比較すれば、少々風変わりなブルックナー・サウンドになっていた。俗にいう重厚壮大なブルックナーではなく、したがって高峰を仰ぎ見るようなブルックナーでもない。
 具体的には、全合奏の個所では、金管の咆哮よりも弦楽器群が織り成す波のような動きを前面に浮かび上がらせ、この作品から巨大性と威圧感とを取り去った演奏――とでも言うか。ただしこれは、1階の真ん中、下手寄りの席で聴いたバランスに由る印象だが。

 全体にあまり「磨き抜かれた音」でなく、粗っぽいアンサンブルという感ではあったものの、第2楽章あたりからは弦の音色が次第に瑞々しさを増して行った。第4楽章で弦の各パートが交錯し、ざわめく個所などでは、ブルックナーの音楽が持つ柔らかい叙情がいっぺんに流れ出して来たような快さ、懐かしさを感じたものである。

 ハーディングのこうしたブルックナーへの感性はすこぶる興味深いものだが、その反面、聴いていて、何かひとつ、張り合いがない。何故だろう、と考えていたら、終演後、ある人が「この演奏、待ってました!ここが山場だ!と思わせる場所がないんだよな」と苦笑していた。なるほどこれは、実に巧い表現だ。

 ハーディングが欧州のオケと日本のオケとでスタイルをガラリと変えて指揮するのは今始まったことではないから、もしこの「5番」を欧州のオケで指揮したら、もっと何か大胆不敵なアプローチを押し出すのかもしれない。

 演奏後にはブラヴォーの声も少なからず飛んでいた。
 あの「ブラヴォ━━━ォ」と長く引き延ばす声を最近あまり聞く機会がなかったので、何か寂しかったが、久しぶりに聞いた。あの声は、本当にどこからともなく響いて来る声で、客席をすべて見渡せるサントリーホールにおいてさえも、その発声源を特定するのは不可能である、という実に不思議な物理的特性を備えた声なので、私には妙に面白くてたまらないのだ。少なくとも、拍手に先んじてよく発せられるあの良く言えば落ち着いた、悪く言えば不景気な声のブラヴォーよりは、よほど愉しいものがある。

コメント

この世で最も美しいと思うもののひとつに、酒井抱一の紅白梅図屏風がある。出光美術館でその絵の前に立った時、新日本フィルとハーディングさんの音楽に似ていると感じた。とりわけ白梅の方。

土曜日も前半まではその質感が得られていた。特に第2楽章。この調子で最後まで行ければいいなと願っていたけれど、第3楽章の途中から急激に運動量が落ちた。彼らにしては珍しくこの日は初めから響きの透明度が低めだったところ、そこから更に濁りが増し、ドライに傾き、始末が雑になっていった。そういう状態に陥ってしまうと、たとえ他に優先させたい場所があったにせよ単純に体感として辛くなる。新日本フィルのブルックナーは、アルミンクさんとの7番と5番、ハウシルトさんとの4番、そしてハーディングさんとの8番も好きだった。だから余計に歯痒くなった。サントリーでのマーラーはとてもうまく行っていたから、今回の結果は指揮者の拘りがブルックナーの方により強くあり、指示と制御が更に細かくなったことによる必然だったと思う。

新日本フィルより立派な音を出す楽団はたくさんある。そんなことは判ってる。でも、ハーディングさんのそういう細かさをまともに受け止め、真正面から付き合おうとする常設オーケストラは多分それほど多くはない。

数を聞いている人間にとっては、このレベルの不発は在京組でも来日組でも日常茶飯事のはず。それなのにこのコンビに関しては、風当たりが10倍くらいになって返ってきてしまう。アンフェアなことだとは思うものの、ワールドクラスの指揮者を迎えるということはそういうことだし、感動やら名演やら至高の音楽体験やらを求められやすくもなるし、世間とはそういうものだし。

でも、より困難なそちらの道を行くことを自ら選んでしまったのだから仕方ないですね。双方のファンとしては腹を括って、そのハードワークの過程を見守っていく所存です。

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