2019-05

5・5(月)新国立劇場 新制作 ツィンマーマン:「軍人たち」

  新国立劇場

 若杉弘芸術監督が面目を賭けた、ベルント・アロイス・ツィンマーマンの「軍人たち」がついにハウス・プレミエされた。ドレスデン・オペラのオリジナル制作にもとづくネーデルランド・オペラ版からのレンタル上演だが、これはきわめて価値ある日本初演である。
 脇役の日本人歌手陣をはじめ、合唱団がよくあそこまでやったものだ。演技というよりは舞踊といった方が当っているかもしれないが、演出に人を得ればこれだけの水準の舞台が創れるのだということが、ここでも立証されたといえよう。

 その演出はウィリー・デッカー、再演演出がマイシェル・バルバラ・フンメル。舞台美術と衣装がヴォルフガング・グスマン、照明がフリーデヴァルト・デーゲン。
 舞台幅一杯に長方形の箱型内舞台が、やや高い位置に設定されている。
 軍人たちはすべてスキンヘッドで赤服という画一的な姿。彼らを含め登場人物は全員が白塗りの顔。大道具は他に無く、小道具もほとんど無い。巨大な箱の中で繰り広げられる人物たちのマリオネットのような動きは、実に強烈かつ精妙だ。
 ただその一方、たとえばラストシーンでPAにより拡大された軍靴の響きや喧騒といったものに象徴される生々しい人間の「業」のようなものが、著しく抽象化されてしまった印象は否めまい。したがって、物語が持つリアルなどぎつさには不足する。もっともこれはあくまで演出スタイルの選択肢だから、あれこれ言ったところで、所詮は好みの問題になろう。しかしこのような舞台は、時にやや単調に感じられることがある。

 主役陣は、娼婦に身を持ち崩すマリーをヴィクトリア・ルキアネッツが体当たり的に熱演。彼女を愛するシュトルツィウスを歌ったクラウディオ・オテッリが、今回は予想外に良かった。デポルトのピーター・ホーレも安定している。その他脇役たちと合唱(新国立劇場合唱団)も、音楽的にも演技的にも優れたものを示していた。
 東京フィルは若杉の指揮の下で今回は珍しく豪快に鳴り渡った。金管がのべつ唸り、咆哮するようなこの曲では、アンサンブルもクソもないといった感じだが、とりあえずパワーは讃えておこう。これらをまとめた若杉の力量も、長年にわたりオペラに情熱を燃やしてきた彼の本領と言うべく、見事なものであった。

 やたら高音域の声を使い、四六時中絶叫しているという感じのドイツ現代オペラ特有の嫌らしさには辟易するけれど、重量感充分のあざとい個性を持つ「軍人たち」。このオペラをナマで聴けたことはうれしかった。
   

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軍人たちの演出

5/10に「軍人たち」を見ました。まず日本でこんな珍しいオペラが観られるとは驚きです。若杉氏の棒も冴え、見事な演奏でした。演出も白・黒・赤・黄だけの舞台造り(いささか眼がちらつきますが)で、面白い演出でした。ある意味で軍人の欲望を、あえて無機的な表現でぎらつきを抑えた演出で、これはこれで面白いとは思いますが、私の個人的な好みでは、1989年・シュトゥットガルトのクプファーの、軍人の欲望を剥き出しにしたどろどろした演出の方が好きです。変な見方かも知れませんがこのオペラの一番のキーワードは最後に出てくる通行人の紳士の台詞「俺の娘も何処かで乞食をしているかも知れぬ」だと思います。このオペラのテーマである、マリーが身を持ち崩して娼婦、果ては乞食にまで落ちていく物語を象徴的に表している台詞だと思います。言い換えればこの一言に向かって物語りが進行し、それを支えるのが軍人たちの欲望なのではないでしょうか。思えば現代日本でも家出した娘が新宿や渋谷で遊んでいるうちに行方不明になり、娘の身を案ずる親の気持ちもこんなものではないでしょうか。この意味でもう少し人間の欲望と運命を生生しく描いた演出の方が良いと思います。

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