2019-11

8・28(木)サントリー芸術財団サマーフェスティバル2014
シュトックハウゼン:「歴年」雅楽版

  サントリーホール  7時

 1977年秋に国立劇場で初演された「歴年(JAHRESLAUF)」雅楽版の、37年ぶりの再演。

 私は観ていなかったが、何しろ初演の時は、音楽評論家軍団からはクソミソに叩かれたそうだ。当時の新聞評のいくつかや、「音楽の友」の演奏会評などを調べてみると、なるほど酷評の洪水である。シュトックハウゼンの音楽を非難しているのか、舞台演出を非難しているのか、それらをごちゃまぜにしているのか判らないような論調もあるが、とにかく罵詈雑言の嵐だ。

 プロデューサーの木戸敏郎がネットで公開している長文を読むと、当時、この作品を委嘱した当の国立劇場でも、評議員のリーダー格だった某評論家が、この作品は「伝統の破壊」であり、国立劇場は二度とこんなものは取り上げるべきではないと力説、多くの委員が自分では聴いてもいず、観てもいないのに、その評論家の意見と、外部の有力な評論家たちの意見をそのまま鵜呑みにしてしまった━━という経緯もあったという。今でもありそうな話だ。

 今回のプログラムには、「新演出」とクレジットされている。が、当時の資料(「音楽芸術」78年1月号掲載の舞台写真と松平頼暁氏のレポート)と照合すると、演出の細部は多少変更になっているものの、概して基本的には当時の舞台をほぼ忠実に再現したものと言っていいようである。 「1977」(初演の年)という数字が舞台床に大きく描かれ、その数字に向かって歴年が進んで行き、エピソード風の寸劇も再現されるという具合だ。

 だが、なるほどこれでは、━━ライオンが暴れ回ったり、ウェイターがソーセージの皿を乗せたテーブルを押して出て来て舞人たちに勧めたり、猿がオートバイを駆って舞台を走り回ったりするのでは、37年前という時代には、みんなが面食らったのも無理はなかろう(1977年と言えば、バイロイトであのパトリス・シェローが先鋭的な「指環」を演出、喧々諤々の議論が起こった翌年だ)。
 ましてこういう演出が、こともあろうに雅楽と一緒に、日本の伝統芸術の聖堂たる国立劇場で上演されれば、当時の謹厳な音楽評論家のお歴々の呆れ返った表情も想像できようというものである。

 その意味で、今回のこれは、非常に興味深い上演ではあった。しかし、37年という時の流れは恐ろしいものである。さまざまな演出のオペラを知ってしまった私たちにとっては、今やこの舞台が、もはや何とも古臭くて、平凡なものに感じられるまでになってしまったのだ。それは、あたかも、博物館の展示品を見るような思いであった。
 それゆえ、この大作に今日的な意味を求めるなら、いっそ当時の舞台を再現するのではなく、本当の新演出を徹底的に施して上演するべきではなかったか?

 シュトックハウゼンの音楽の方は、演出と異なって「賞味期限」の長い音楽の強みで、まだまだその特質の探索への道は多様に残されているように思われる。
 彼の行なったことが、結果的に雅楽を既存のイメージから解放することにあったか、それよりも単に彼の流儀での雅楽器へのアプローチに過ぎないものだったか、あるいは単に雅楽器をひとつの素材として考えていたにすぎなかったのか、その辺は解釈の違いもあるだろうが、いずれにせよ興味深いものには変わりない。
 明後日には、この作品が洋楽版で上演(日本初演)されることになっているので、そこで新たな回答への指針を与えられるかもしれない。

 なお、第2部では、一柳慧の「時の佇まい 雅楽のための」(サントリー音楽財団委嘱作品)が世界初演された。
 この方は、さすがに日本人作曲家の手によるものだから、雅楽の音響の多様さが鮮やかに浮かび上がって来る。そして、作曲者が述べているように、「シュトックハウゼンのコンセプトに拮抗する別の発想・・・・東洋ないしは日本的な考え方を生かした発想」の中で、雅楽を既存のものから「脱構築」することを狙った姿勢も、明確に感じられたのだった。私にはそれが、あたかも第1部の「歴年」を補完━━もしくは修正━━するような音楽にさえ感じられ、非常に面白かった。

 但し、今日は聴いた席がRB後方で、舞台両翼に拡がった雅楽器のアンサンブルのバランスを正しく聴くには著しく不適当な位置だったので、これ以上の印象を述べるのは避けておきたい。
 なお、木戸が「歴年」について、当時一世を風靡していた「構造主義」に基づき、在来の音楽を脱構築、再構造化するという主張を述べているのに対し、一柳が自作紹介の文章の中で、「既存の技術を再構築」という文章の前に一言、「音楽の感性・・・・」という文言を入れているのが、目を惹いた。

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