2019-11

8・16(土)川瀬賢太郎指揮読売日本交響楽団「3大交響曲」

     サントリーホール  2時

 「3大交響曲」━━「未完成」「運命」「新世界」となると、やはり大変な人気があるようだ。しかも土曜日の午後。客席はあらかた埋まっている。読響の夏の定番である。前回のこれを聴いたのは3年前、山田和樹の指揮だったが、今回は川瀬賢太郎の指揮だ。

 いいオーケストラとの共演で聴くと、この人の指揮は、作品全体のバランスを整える感覚が実にいい、ということがわかる。しかもメリハリのある、がっしりした構築の音楽をつくることの出来る人だ。
 ベートーヴェンの「5番」では、第1楽章での重厚な力感もなかなかのものだったし、第4楽章冒頭でエネルギーを一気に解放しての剛直な主題の響かせ方も優れていた。その第4楽章での和音の反復の個所も、全身で叩きつけるような強靭さに満ちていた。━━ただし全曲最後の決めの個所よりは、展開部の終り(【H】)のところの方がまとまりも良く、痛快味もあったが。
 ティンパニをしばしばクレッシェンドさせたりアクセントを強めたりするのも、川瀬の心の裡に波打つ感情の動きを表わすものだろう。

 「未完成交響曲」の第1主題での弦のゆらめきに起伏をつけるのは、だれかもやっていた手法だったが━━スダーンだったか?━━悪くない。
 「新世界交響曲」第4楽章のコーダで、それまで高まっていた力感を更に一押しするところは、彼が以前東京フィルでショスタコーヴィチの「5番」を指揮した時にもフィナーレの最後で聴かせたこともある大技であった。

 こういう丁寧な音楽のつくりを、作品全体のバランスを失わせることなく行えるのが、川瀬のよい持ち味でもあろう。
 もっとも、それを彼が常任指揮者を務めているオーケストラでなく、読響で実現できているということは、━━「読響は自分でやっちゃうオケだからな」(自主的に音楽をつくり、気に入った指揮者を援けるという意味らしい)と、某オーケストラの事務局の人が言っていたが、━━まあ、それもあるだろうけれども、いいではないか。

 ただ、川瀬の指揮、かようにデュナミークの変化が聴き応えに富んでいるにもかかわらず、いつも何か几帳面すぎるというか、慎重というか、堅苦しい印象が抜け切れないのが、これからの課題だろう。もしかしたら、イン・テンポにすぎて、自在な伸縮の呼吸といったものにやや不足するからなのかもしれない。ダイナミックな個所では力感を発揮するのだが、弱音の個所になると、しばしば緊張が薄くなる傾向もある。こういった点が、早く解決できれば、と思う。

 しかし、彼の指揮のジェスチュアも、最近とみに、獅子奮迅の熱演になって来たようだ。「5番」第4楽章での第1主題の2小節目(G音)で、拳を握った左手を天まで届けとばかり衝き上げ、力感を身体いっぱいに表わしたり、15小節目以降では跳躍しながらリズミカルな音楽の進行を強調させたりする情熱が、若い指揮者らしくて微笑ましく、好ましい。「新世界交響曲」も含め、昂揚した音のところでの「左手」の表情豊かな動きが目立つ。
 ステージに出て来る際にも、以前のようにうつむき加減で遠慮がちに歩いて来るのではなく、オケに起立を促しつつ両手をあげて颯爽と出て来るようになった。読響のプログラムにも、全身全霊を込めて指揮をする顔の写真が載りはじめている。イメージ・チェンジか? 演奏の中身を含めて、大いに若武者ぶりを発揮していただきたい。
      モーストリー・クラシック11月号 公演Reviws

コメント

1階15列で聴きました。先生はいつも2階前列でお聴きになられているのでしょうか。
読響「三大交響曲」は毎年聴いていますが、印象に残るものは下野竜也、昨年の広上淳一、そして今年の川瀬賢太郎くらいです。尤も昨年の広上淳一はこのシリーズえは例外的な別格的破格なものでしたが。

その広上淳一は川瀬の師。二年続けて師弟が振るという興味深い企画でした。謂わば川瀬は優れた資質を持つ才能の初期型。広上淳一はその完成型。いずれも只者ではありません。まだまだ若く青い川瀬ですが、よくある情熱が先走る熱演タイプでなく、三曲ともに作品の魅力をごまかしのない表現で伝えていました。作品ファーストの姿勢が徹底していて、どれもがそれぞれ佳い曲だなと納得させるものだったと思います。比較はしたくありませんが、作品よりも自分を良く見せようという一昨年の指揮者のタイプと正反対。

熱演よりは集中力の強さが第五を第五足らしめていました。色物の「新世界」も格調高く、「未完成」もきっちりとしたフォルムを弁えています。特筆すべきはどの曲も緩徐楽章の見事さでした。若い指揮者がアレグロやスケルツォ楽章を勢いで聴かせても、緩徐楽章では無理がでます。しかし川瀬が表現する緩徐楽章は、巨匠指揮者でもなかなか、という充実した表現に驚きました。意外と早く「田園」の終楽章や「第九」の第三楽章にチャレンジするかも知れません。読響あたりで一度聴いてみたい気がしています。

お詫びと訂正です。
>一昨年の指揮者のタイプ
とは、2011年の山田和樹氏の間違いです。
つまり東条先生も聴かれた3年前の指揮者でした。
尊敬する紙面を汚すことになりましたことを、深くお詫びして訂正いたします。

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