2019-11

8・5(火)コンヴィチュニー オペラ・アカデミー in びわ湖 (7日目)

    びわ湖ホール リハーサル室  午前10時

 コンヴィチュニー演出セミナーの続き、ヴェルディの「椿姫」。
 今日の午前のコマは、最初に第3幕後半の演出づくり、次いで第3幕全部の通し、そして第2幕の「ヴィオレッタとジョルジョ・ジェルモンの場」の補足。

 第3幕フィナーレでは、ヴィオレッタ(中村洋美)の動きが激しく、臨終間近い人とは思えぬ歌唱と演技を示していたが、これは「ヴィオレッタは悲しんでいない。取り乱しているのは他の人々である」というコンヴィチュニーの設定に基づいてのものらしい。
 死の場面では、彼女は倒れず、独り背景の幕の中に姿を消す。一方、アルフレード(水口健次)やその父親ジェルモン(西條智之)、アンニーナ(乾ひろこ)、医者(五島真澄)といった者たちは、客席を通って逃げ出して行く。人間はすべて死ぬ時は独りであり、残された者たちはただ死への恐怖に慄くのみ、ということの象徴だろう。

 いずれにせよこれは「泣けない」幕切れである。コンヴィチュニーはすべての悲劇を「涙を催すことのできない悲劇」にしてしまう、と昨日も書いたが、これもまたその一例だ。死に行く人を崇高な美しさで描くことは、いい。だが彼は、残された者たちの複雑な心理を、あまりに惨酷な手法で抉り出し過ぎる。

 第2幕の前半は、別キャストだ。ジョルジョ・ジェルモン(砂場拓也)とヴィオレッタ(宮澤尚子)が対決する場面は、部分的な演出をちらりと見ただけだが、これもいかにもコンヴィチュニーらしい手法であった。
 ここで父ジェルモンが、「娼婦だったあなたが息子アルフレードと一緒にいると世間体が悪く、娘の縁談に差しさわりがあるから身を引け」とヴィオレッタに迫る場面で、彼はその当の「娘」(つまりアルフレードの妹)を連れて来る。そして、この「おとなしい、おどおどとした幼い妹」が、父の言葉の酷さに、逆にヴィオレッタに同情してしまい、怒った父親から顔を張られて突き飛ばされる━━という流れになるのは、予想された通りだ。

 3人を荒々しく動き回らせる演出は、この場面の音楽に含まれる激情的な部分を強調したものとして、理解はできる。ただ、そのドタバタとした動きは、少々煩わしい向きもあるだろう。
 その黙役の妹役を演じたのは南美里という、合唱団受講生として参加している人だったが、黙り役なのに、ずば抜けてカンがよく、演技も巧い。最優秀助演賞を贈呈したいほどであった。

 そしてなにより、ここでヴィオレッタを歌い演じた宮澤尚子が素晴らしい。
 インディアンの娘みたいな扮装(田舎に引っ込んだヴィオレッタだからこういう姿をしているんだというコン大先生の指示なる由)は、野暮ったすぎてどうかと思うが、演技の表現力、そのリアルな表情、張りのある声の安定感、歌唱の表現力など、どれをとっても抜群の存在感で、観客の目と耳をくぎ付けにしてしまった。あのコンヴィチュニーがリハーサル中に、「ジェルモンの無体な要求に唇を震わせるあなたの素晴らしい演技には感動してしまいました」と絶賛の言葉を贈ったほどである。

 彼女がふだんどんな活動をしているのか、私は存じ上げないけれども、東京芸大卒でまだ20代の若さとのこと。日本のオペラ・プロデューサーは、今のうちに彼女と契約しておいた方がいいのでは? 
 リハーサル中にある経緯から「コジ・ファン・トゥッテ」の「フィオルディリージのアリア」の話が出て、コンヴィチュニーが突然「だれかこれを歌える人は?」と受講生たちを見まわした時に、瞬時に名乗りを上げてレパートリーをアピールした、そういう積極性も高く評価したいところだ。

 なお、今回使われているピアノは、びわ湖ホール前芸術監督、故・若杉弘氏が愛用していた楽器で、夫人から寄贈されたものとか。土曜日夜に行われたロビー・コンサートで、現・芸術監督の沼尻竜典が弾いていた楽器もそれだった。その話は、日曜日の朝にホールのスタッフからセミナーの会場で一同に伝えられた。それを聞いて一同、粛然たる面持。

 午前のコマが午後1時に終了したところで、失礼する。京都駅から午後2時の新幹線で、広島に向かう。 

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