2019-11

8・4(月)コンヴィチュニー オペラ・アカデミー in びわ湖 (6日目)

    びわ湖ホール リハーサル室  午前10時

 昨日の続き。
 第3幕の最初から、アルフレードとヴィオレッタの2重唱までがリハーサルされた。第2幕の最後で一同が狂乱状態の裡に倒れ伏したのを受け、ヴィオレッタのみがそのまま舞台に残って第3幕の病の床の場面に移る、という具合。
 演出の指示は昨日よりもさらに詳細を極め、歌詞や動作の一つ一つにその理由、背景、心理などを説明して演技表現を理解させる。見上げた徹底ぶりだが、彼の話は以前より少々長くなり、そのテンポもやや遅くなったような気もする。

 いかにもコンヴィチュニーらしいと思われた発想の一つは、医師グランヴィルが早朝7時にヴィオレッタの診察に訪れた際に、カーニヴァルの前夜祭で飲み過ぎて酔っぱらっているという設定だ。
 一見、小細工のように思われるが、その狙いは、孤独の身であるヴィオレッタはたとえ相手が医師であろうとも精神的に頼りたい心境にあるはずであり、しかし医師の方は惨酷な診断の結果を侍女アンニーナに伝えなければならない・・・・そのギャップの冷酷さを和らげるために、医師を酩酊させ、千鳥足の演技をさせるというコミックなシーンを挿入した━━ということなのだそうだ。

 なるほど細かいアイディアだとも思うが、しかしどんな理由があるにせよ、カーニヴァルの素っ頓狂な衣装の酩酊状態の医者をこの場に登場させることが、ヴィオレッタの運命に涙している観客の心理に果たして合うものかどうか? 
 コンヴィチュニーの演出は、あまりに過剰な策を講じすぎるあまり、どんな悲劇的なオペラさえも、涙を催させる悲劇ではなくしてしまう傾向があるが、これなどもその一例ではあるまいか。

 異論と反発ついでに、もうひとつ言わせてもらうことにする。
 この第3幕でコンヴィチュニーは、2か所の音楽をカットした。
 1つは、ヴィオレッタがアンニーナに手持ちの金を計算させ、20ルイのうちの半分を「貧しい人たちにあげてちょうだい」と命じる個所。
 もう1つは、手紙を読んだ後に窓外から聞こえて来る謝肉祭の陽気な合唱「バッカナール」である。

 前者は、「ヴィオレッタを親切な女性に見せかけて、当時の検閲をくぐりぬけさせるため挿入したに過ぎない個所なので」カット。
 また後者は、「このオペラでは合唱の役目は第2幕までですでに終わっている」のでカット━━ということなのだそうだ。
 それらが、全く当を得ていない解釈だというのではない。しかし、だからといって、ヴェルディの書いた音楽を、演出家がそんな理由をつけて勝手にカットするなどというのは、思い上がりも甚だしいというべきではないか? 

 これは、コンヴィチュニーがかつて「マイスタージンガー」や「コジ・ファン・トゥッテ」や「ドン・ジョヴァンニ」で、演奏を途中でストップさせて議論を挿入するなどして、もとの素晴らしい音楽の流れを完全に破壊してしまった手法と、ある意味では共通している。
 私がこれまでコンヴィチュニーの演出に20作以上も接し、いつもその意表を衝いた発想に舌を巻きつつも、未だにコンヴィチュニー信者になれないままでいる理由のひとつは、「音楽を大切にする」と言いながら、しばしば音楽を破壊させることを敢えてするという、彼の演出手法にあるのだ。

 しかし、━━こんなことを、あの熱気渦巻く演出セミナーの場所で、しかもコンヴィチュニーの演出指導を必死に咀嚼しようとしている100人近い人々の中で口にでもしようものなら、どんな目に遭うかわからぬ。

 今日の配役は昨日と基本的に同じで、アルフレードのみ水口健次に替わった。やや怒鳴り過ぎだし、もう少し正確に歌ってもらいたいものである。
 ヴィオレッタ役の中村洋美は昨日に続く出演で、ほとんど出ずっぱりで1日中歌うというハードな役回りだったが、強靭な声で最後まで歌い切ったのは偉としたい。

コメント

天才演出家はやはり音楽の敵。
彼らは音楽の素晴らしさを分からないのかわかった上で敵わないのを知りながら破壊するのか?
いずれにしろこれは戦いだと思います。最後は演出家が音楽の前にひれ伏すことでしょう。

世田谷パブリックシアター「マクベス」の事例を見る限り、「ノーカット信者」になる必要もないと思います。オペラも舞台の一ジャンルにすぎない。本質さえ外さなければそれでいい。そもそもオペラ「椿姫」は、涙の中で溺れたい人達のための単なる悲劇ではありません。またヴィオレッタも、客席から憐れみの施しを受けるだけの可哀想なヒロインではありません。基本的前提事項かと思っていましたが。

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