2020-07

7・18(金)インゴ・メッツマッハー指揮新日本フィルハーモニー交響楽団

     すみだトリフォニーホール  7時15分

 先週の演奏会があまりに面白かったので、この定期も聴きに行く。
 ベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲と「交響曲第5番《運命》」の間にツィンマーマンの「わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た」という作品を挟んでのプログラム。

 圧巻だったのはやはり、これが日本初演となったツィンマーマンの大作(演奏時間約40分)だ。
 大編成のオーケストラに、エレキ・ギターから新聞紙、段ボールにいたるまでが使われて異様な音響をつくり、コントラバスの一部は電気的増幅まで行われる。上階客席3か所にはバンダが配置される。金管と打楽器が圧倒的な力を発揮、音楽は鋭く荒々しく、まさに衝撃の連続だ。メッツマッハーの重厚で強靭な力をもった指揮のもと、新日本フィルも見事な演奏を繰り広げていた。

 この曲には、旧約聖書や、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」などから採られた悲劇的な内容のテキストが使われる。指揮者の横に立つバス歌手(ローマン・トレーケル)と、オルガン両側の高所にそれぞれ立つ2人の語り手(松原友、多田羅迪夫)がそれらを歌い、語って行く。
 バスのパートは、時にオーケストラの強奏に消されるというハンデがあったため、むしろ2人の語り手の存在感の方が強くなっていただろう。語り手は腕を拡げて跳躍したり膝まづいたり、アクションも交えての奮闘だ。

 テキストはもちろんドイツ語だが、幕切れに近く挿入されるアドリブ個所に突然日本語(訳)も混じって来るくだりも印象的で、そこでは指揮者も語り手も腰を掛けて瞑想的な姿勢になっている。
 バスの最後の歌詞は「(倒れても)起してくれる友のない人は不幸だ」である。そしてオーケストラに突然バッハのコラールがデフォルメされて出現し━━この瞬間はシェーンベルクの「ワルソーの生き残り」の最後にも似た衝撃を生むだろう━━、その祈りを根こそぎ破壊するようなフル・オーケストラの暴力的な一瞬の強奏で、全曲が閉じられる。
 なんとも暗い、不気味なエンディングである。この曲を書き上げて間もなく作曲者がピストル自殺を遂げてしまったことを思い起こすと、なにか身の毛のよだつような恐怖をさえ感じさせるだろう。

 この曲を挟んで、意志の強いベートーヴェンの作品━━1曲はハ長調で始まり、他の1曲はハ長調で終る━━が演奏されたことは、プログラムの意図として、すこぶる意味深長なものがあった。
 「第5交響曲」では、両端楽章は猛烈なテンポでひたすら突進、驀進、ティンパニの豪打も凄まじく、重量感もろとも大詰へ殺到する。アンサンブルの細部よりも音楽自体のエネルギーを再現することに重点を置いた演奏だ。こういうのもありかな、とは思ったものの、些か辟易させられたのは事実であった。

 それゆえ、演奏としては、「プロメテウスの創造物」序曲の方が完成度は高い。
 冒頭に断続して強奏される和音群が、大きく弧を描くような関連性を以ってハ長調に向かって行く見事さ。なるほどベートーヴェンはここをこのような構想で作曲したのだな、と解らせるような設計の演奏である。そのあとのアダージョの主題部分でも、各フレーズがおのおの応答しあうような意味合いで演奏され、一つの大きな起伏をつくりつつ主部に向かって動いて行くさまを感じさせたのであった。
 この短い導入部をこれだけ念入りに考え抜いて演奏した例は滅多にないだろう。メッツマッハー恐るべし、である。

※一部記憶違いの個所を削除しました。コメントで指摘して下さった方に御礼申し上げます。

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カラマーゾフの兄弟、大審問官。音楽を聴くよりも本を読む時間の方が長かった頃に出会った物語に、こんな形でまた再び打ちのめされることになろうとは。イワンとアリョーシャにたまらなく会いたくなってしまったので、この夏の間に読み返そうと思います。あのような音楽をあのような演奏で聴けるなら、この世もそう悪いものではないと未だ思える幸運をかみしめながら。

新日本フィル、来シーズンも楽しみにしています。

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