2020-07

7・14(月)アンドレア・バッケッティ ピアノ・リサイタル

   トッパンホール  7時

 イタリア生れ、痩躯のピアニスト。
 この招聘元は概してアーティストの生年を公式発表せぬ主義らしいので(外国の資料でも年齢や係累は書かないのが多い)、年齢は不詳。中年だろう。しかし、何とも不思議な、個性的なピアニストだ。

 第1部がバッハの「トッカータ ホ短調BWV914」と「ゴルトベルク変奏曲」、第2部がモーツァルトの「幻想曲ニ短調」と「ソナタ第10番ハ長調K330」というプログラム。

 「ゴルトベルク変奏曲」は、「繰り返し」なしで、テンポも速い。演奏時間も、何と35分前後ではなかったろうか。
 だが、音の躍動は物凄い。古典的な造型よりも、激しい感情をそのままぶつけたような、変幻自在の演奏である。「激動のゴルトベルク」とでもいった趣だ。これほど面白い(?)「ゴルトベルク変奏曲」はかつて聴いたことがない。
 というわけで、私自身は大いに新鮮な気分を味わったのだが、休憩時間に通路を歩いていた時には、「こんなバッハは嫌だ」という声も耳に入って来た。

 モーツァルトも、ユニークな演奏だった。そもそも「ハ長調のソナタ」は、ふつうの場合のように何の屈託もなく弾かれると、いかにもご家庭向きソナチネみたいになってしまい、面白くないのだ。が、このバッケッティのような翳りのある表情で演奏されると、途端に作品が全く異なった姿で立ち現れて来る。彼は頻繁に音をずらせて音楽全体を揺り動かしたり、大きな強弱の対比を試みたりするのだが、そうするとこのソナタは、途方もなくスケールの大きな、複雑な様相を含んだソナタという印象になるのであった。

 正規プログラムは、8時半過ぎには終ってしまった。するとバッケッティが、「第2部は短くて申し訳ないので、バッハを」と言って(なんだか不思議な喋り方をする人だ)、またピアノに向かう。そして弾き出したのが、「アンナ・マグダレーナの音楽手帖」からの「メヌエット」や、「平均律クラヴィーア曲集第1巻」の「プレリュード」や、「フランス組曲第5番」などを接続組曲風にしたものだった。これがまた、曲想の上でも、実に巧く繋がっているのである。
 そのあと、ヴィラ=ロボスの小品(「ハンク」と言ったか?)を1曲、最後にショパンの「黒鍵」を弾いてリサイタルを締め括った。どれもこれも一癖ある、自己主張の強い演奏ばかりだった。
 とにかく、実に面白いピアニストである。

 ただしこの人、ちょっと妙な癖がある。
 「ゴルトベルク変奏曲」では、変奏の合間のパウゼで、彼はしばしばピアノを弾く手を下して膝に置くのだが、これが結構大きな音を立てるのだ。まるで、ポンと膝を叩いて弾みをつけ、次の変奏に入るという感じなのである。気にし始めると妙に気になる仕草なので、私はあまりいい気持ではなかった。

 また、「トッカータ」と「ゴルトベルク」は、曲想から言っても、続けて弾かれた方が感動的だったのではないか。だれもがそう予想していたろう。だが、バッケッティ自身が「終わったよ」という顔をして客席を見たので、聴衆は思い出したように拍手を始めたのである。彼は答礼をしてすぐまた椅子に座り、「ゴルトベルク」を弾き出したが、この拍手のせいで、レセプショニストが遅刻してきた客を何人か席に誘導してしまった。そのため、「ゴルトベルク変奏曲」の最初の美しい「アリア」は、ややざわついた客席の雰囲気の中で開始されてしまったのである。

 そういえば、この長大な曲の演奏の最中に、下手側から平気で客席に入って来て、席を探すが如き様子でホールの中央を横切って行った女がいた。とてもまともな神経とは思えぬ行動である。しかしこんなのは、入場を制止しなかったホール側にも大きな責任があろう。

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