2020-04

7・9(水)大野和士と国立リヨン歌劇場の「ホフマン物語」

   オーチャードホール  3時

 大野和士が首席指揮者を務めるフランス国立リヨン歌劇場の日本公演は、先日演奏会を聴いたばかりだが、今度は、いよいよ本命のオペラ,公演━━オッフェンバックの「ホフマン物語」だ。
 全3公演の日程。今日はその最終公演である。

 結論から言うと、これはまさに傑出した上演であった。
 成功の最大の要因は、大野和士の鮮やかな指揮である。瑞々しく活気にあふれ、緊迫感を全く失わせず、ドラマティックに盛り上げてクライマックスをつくる彼の指揮は、たとえようもなく素晴らしい。しかも、歌手を伸び伸びと歌わせつつ、それらを艶やかな音色とふくよかな厚みを備えたオーケストラで豊麗に包んで行く呼吸の見事さ。

 これまで聴いた彼のオペラ指揮の中でも、この「ホフマン物語」は、数年前のモネ劇場における「ウェルテル」をはるかに凌ぐものだろう。スケールの大きなドラマを感じさせる快演だ。世界に雄飛しているオペラ指揮者としての大野の本領が、十全の形で日本に紹介されたのが今回の上演なのではなかろうか。

 この歌劇場のオーケストラが、また佳い。オーチャードホールのオケ・ピットから、これほど色っぽく、しかも量感のある音が聞かれたのは、滅多にないことである(言いたくはないが、これに比べるとわが愛する日本のオケは、ピットに入ると何故あんなにも貧弱な音しかださないのだろう)。これは、「ホフマン物語」の音楽の良さを余すところなく出してくれた上演である━━それも大野の功績の一つだが。
 ロラン・ペリーの機知と品の良さに富んだ演出、シャンタル・トマの要を得た変化を備えた舞台装置も見事だった。

 ところで今回の上演の版は、ケック校訂譜を基にしたものの由(パンフレットの岸純信氏の解説による)。レシタティーフ部分をセリフ形式に戻し、幕の順番は、第1幕をプロローグ、第2幕を「オランピア」、第3幕を「アントニア」、第4幕を「ジュリエッタ」、第5幕をエピローグとした構成だ。
 私の好みから言えば、「ジュリエッタ」のあとに「アントニア」を持って来た版の方が、その音楽の劇的な迫力ゆえに、ドラマを締め括るのには適していると思う。だが、今回の版のように「エピローグ」が長く━━終りかと思うと未だ先がある、というヤツだ━━ミューズがホフマンを抱いて己が勝利の悦びに浸るシーンで閉じられる演出となれば、それなりに良いバランスになることは理解できる。

 歌手陣。
 ロラン・アルバロが、議員リンドルフ、人形師コッペリウス、医者ミラクル博士、魔人ダペルトゥットを1人で歌い分け、長身と得意なマスクで、不気味な、すこぶる存在感のある悪役ぶりを披露してくれた。この「魔人」役の出来がこのオペラの舞台を左右するといっても過言でないだけに、彼の存在は大きい。
 もっとも、この4役を1人が歌うケースは、別に珍しいことではない。

 しかし、歌姫ステッラ、人形オランピア、胸を病む歌手アントニア、妖艶な美女ジュリエッタを1人のソプラノが歌うとなると━━それはドラマのテーマに完璧に沿ったものだとはいえ━━役柄の性格の違い、歌唱の性格の違い、歌手の負担の大きさからいって、至難の業であろう。
 今回はパトリツィア・チョーフィが見事にその役を果たしてくれた。第4幕では、第3幕にはあった反響版の役目をなす背景の装置が取り払われてしまったことも影響してか、声にもやや豊かな響きが薄まったような感じもあったが、それでもあれだけ歌えたのは立派というほかはない。
 それにしても、「オランピア」の場面では、あんなクレーンに乗せられて上下左右に振り回されながら、よく歌えたものである・・・・身体の位置が安定していないにもかかわらず朗々と歌えるというのは、凄い。

 詩人ホフマンを歌い演じたのは、アメリカ出身のジョン・オズボーン。演出のせいもあって、やや周囲の人物群の中に埋もれた傾向もなくはなかったが、声はいい。豊かで力のある、伸びのある最高音をこれでもかと連発し、絶好調の歌唱を聴かせてくれたのが何よりであった。
 その他、ミューズとニクラウスの2役を、ミシェル・ロジエがこれも容姿の良さを生かして見事に歌い演じていた。リヨン歌劇場合唱団も、もちろん量感のある歌唱で迫力を添えていた。

 上演時間は休憩を含め4時間に及んだが、長過ぎたなどという感の全く無い、卓越した上演であった。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/1956-aaa5c634
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

最近の記事

お知らせ

●2007年7月以前のArchivesを順次、アップロード中です。併せてご覧下さい。
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2006年7月

Category

ブログ内検索

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」