2020-04

7・8(火)山田和樹指揮スイス・ロマンド管弦楽団

   サントリーホール  7時

 スイス・ロマンド管弦楽団が久々の来日。

 ただし首席指揮者ネーメ・ヤルヴィは同行せず、首席客演指揮者となってまだ2年足らずの山田和樹が全公演を指揮した。珍しいケースだが、それだけ山田和樹の動向が日本で注目されているということだろう。
 つまり今回は「スイス・ロマンド管の来日公演」よりも、「山田和樹が、首席客演指揮者となったそのオーケストラを連れて来た」というニュアンスの方が濃い一連の公演なのである。
 それにしても、日本人若手指揮者が欧州で始めた新しい活動が、これだけ早く、こういう豪華な形で日本に紹介されるようになったのだから、時代も変わったものだ。

 今回の日本公演は、7月4日から12日までの間に8回。今夜が4日目の演奏会にあたる。プログラムは、藤倉大の「Rare Gravity」の世界初演に始まり、樫本大進をソリストに迎えたチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」が続き、第2部にはベルリオーズの「幻想交響曲」が置かれた。

 藤倉大の作品は、2013年にスイス・ロマンド管の委嘱により書かれ、山田和樹に献呈されたもので、今夜が世界初演なる由。愛娘の胎児時代をイメージして書いた音楽━━つまり母親の胎内の世界を想像し、それを描いた音楽なのだという。
 母の胎内での体験は、死後の世界と同様、だれ一人として実際には知らない世界だ。それゆえ、音楽が神秘的な曲想になるのも当然であろう。
 水の波紋が拡がり行くような開始部からずっと、水中で浮遊するような感覚に誘われる。作曲者が書いている「保護する水に囲まれて漂っているような感覚」は、間違いなく聴き手に伝わって来る。その「水」を含めた音楽全体の動きが時に激しくなるのは、胎児の蠢動なのか。そして恰も、これからの真の「生」に向かって躍動するような、突き上げるような昂揚の途上で突然音楽が終了するのも、興味深い。

 チャイコフスキーの協奏曲では、樫本大進が━━彼がここまでやるかと思うほどの濃厚で変幻自在な表情で飛ばして行くのが、たまらなく面白かった。ベルリン・フィルのコンサートマスターという最近の生真面目な仮面(?)をかなぐり捨てたかのような彼のソロを、久しぶりに聴いたような気がする。
 山田和樹がまた大胆なアゴーギグと芝居気で、煽ること、煽ること。第3楽章など、猛烈に速いテンポで、疾風怒濤の勢いで突き進む。こういう演奏を聴くと、彼がすでにオーケストラを完全に手中に収めているように感じないではいられない。
 気の合う友人同士である指揮者とソリストの協演ならではの演奏だ。コンチェルトの演奏がこれだけ聴衆の大歓声を浴びたことは、稀ではなかろうか。

 なお樫本は、アンコールでのバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」からの「ラルゴ」でも、すこぶる微細で、表情の濃い演奏を聴かせてくれた。

 コンチェルトでこれだけ濃厚な演奏を聴かせてくれた山田和樹だから、「幻想交響曲」もさぞかし大胆劇的な演出が・・・・と期待したのだが、こちらは予想外にストレートなスタイルに終始した。オーケストラを劇的にたっぷりと鳴らした壮大な構築ではあったものの、山田なら、まだまだ先へ行けるはずである。
 とはいえ、欧州の海千山千の指揮者が集う名門オケを、若い客演指揮者がここまで制御し、活気ある演奏をつくり出したこと自体からして、すでに非凡な力量と言わなければならぬ。おそらく、あと10年もしないうちに、彼は名実ともに世界屈指の実力を備えた指揮者となるだろう。

 アンコールには、シュレーカーの「ロココ」からの「マドリガル」と、ビゼーの「ファランドール」が演奏され、終演は9時40分になった。

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