2019-07

4・17(木)コンヴィチュニー演出 ヴェルディ:「アイーダ」

  オーチャードホール

 結局、舞台はソファ一つだけが置かれている小さな部屋に統一されていて、物語はすべてこの「矮小な世界」でのみ進められていく。
 主人公たちがどんなに威張っても、もがいても、生きているうちはこの閉鎖的な世界から出られないという設定だ。よく使われる「砂の女」的なコンセプトだが、納得はできる。

 この部屋が開かれるのは、ただ2回。最初は「凱旋の場」で、コンヴィチュニーの語るところによれば「ユートピアの幕開け」なのだそうだが、これはいささかこじつけっぽいし、そう説明されなければ何だか解らない。
 2回目は当然ながらラストシーンで、今回の上演では欧州での舞台と異なり、壁が崩壊した背景に、大都会の映像(動画!)が新しい世界として拡がっている。アイーダとラダメスは、和解したアムネリスを部屋に残し、手を携えて彼方の未知の世界へ歩み去る。こちらは音楽の雰囲気ともぴったり合って、かなり感動的な光景だ。

 そしてまた結局、舞台上に姿を見せていたのは、アイーダ、ラダメス、アムネリス、エジプト国王、高僧ラムフィス、アモナズロ、巫女の主役7人のみ。合唱は1ヶ所(凱旋の場で、背景に演奏者として並んでいる)を除き、すべて陰コーラスである。
 したがって民衆も奴隷も僧侶も、実在の人物としては一切登場しない。
 珍しい手法だが、初めてのものではないだろう。かなり昔、モスクワのボリショイ劇場での「トスカ」で、ボリス・ポクロフスキーが同じ手を使っていたのを観たことがある。その「テ・デウム」の場面など、一面暗黒の巨大な舞台の奥から響いてくる合唱が、なにか恐ろしい圧迫感を感じさせたのを記憶している。ただし今回のは、もちろんそこまでの凄みはなく、ただの陰コーラスというイメージを出なかったけれども。

 こうしたシンプルな舞台だから、いきおい観客は、主役キャラクターの演技に注意を集中することになる。コンヴィチュニーのねらいはそれだろう。
 なるほど、高僧ラムフィスが平和の証として、アモナズロと娘アイーダをエジプトに人質として残すことを提言した時に、ライバルが今後も王宮内に残ると知ったアムネリスがラムフィスに対し怒りを爆発させるという演技など、はっきりと堪能することができる。さすがにレジー・テアター系演出家の大御所によるものだけあって、登場人物の心理の微細な綾は、すこぶる詳細に描かれていた。その意味では、この演出の趣旨を認めるのにやぶさかでない。

 だがしかし、このような演出のみがドラマの本質に迫ることができるのだ、という主旨の発言は、いささか独断に過ぎるような気もする。人間性の本質を明らかにするには一切の衣類を脱ぎ捨てなければならぬとする一部のヌーディストの論理と似たようなものだ。かりに華麗な装置を備えた伝統的な舞台であっても、演出次第で、登場人物の性格や葛藤を存分に描き出すことも可能なはずである。また、観る側の理解度や感性によって、それらを読み取ることもできるだろう。
 何が「本質」なのかという議論も含めて、コンヴィチュニーのこの手法は、あくまで一つの方法に過ぎない。
 また今回の字幕は意図的にかなりオリジナル台本と異なるニュアンスの訳語であった。但し書きによれば、ドイツで上演された際に、その演出意図に基づき作成されたドイツ語字幕をもとに訳されたということだそうだが、そういう訳語にすることが果たして作品の「本質に迫る」ための正しい行為なのかどうかも、疑問と言わなければなるまい。

 演出ばかりに気をとられるのも、オペラの本質を見誤ることになろう。
 指揮はヴォルフガング・ボージッチという、ニーダーザクセン州立劇場の音楽総監督をつとめる人。手堅くがっちりと、歌手に流されずに音楽をつくるタイプの指揮者だ。彼の引き締まった指揮のもと、東京都交響楽団が、幕を追うに従い予想外に(?)しっかりした演奏を聴かせていった。
 おなじみのキャサリン・ネイグルスタッド(アイーダ)をはじめ、歌手陣がいわゆるイタリア・オペラ的な歌唱でないことは、別に非難される筋合いもなかろう。高音の苦しい人もいないではなかったが、これは致し方あるまい。

 カーテンコールでは、演奏者たちに対するブラヴォーと、演出家に対するブーが、ほどよく飛んでいた。ブーイングを受けたことによって、多分コンヴィチュニーも日本の観客に手ごたえを感じたのではなかろうか。

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