2019-05

2・16(日)千住明:オペラ「滝の白糸」東京初演

   新国立劇場 中劇場  2時

 中嶋彰子(滝の白糸)、高柳圭(村越欣弥)、鳥木弥生(欣弥の母)、清水那由太(南京出刃打ち)他の歌手陣。
 大友直人指揮東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団に、合唱が「滝の白糸」アンサンブル・ゾリステン。

 泉鏡花が、昨年は生誕140年、今年が没後75年とあって、新国立劇場でもこの2,3年、彼の作品を原作とするオペラが流行る。
 即ち、水野修孝作曲の「天守物語」新演出再演、池辺晋一郎の新作「高野聖」の東京初演、香月修の新作「夜叉ヶ池」の委嘱初演。そしてこの千住明の「滝の白糸」は、すでに高岡と金沢(いずれも鏡花あるいは物語に縁のある街)での上演を経た上での東京初演だ。

 今回の「滝の白糸」は、黛まどかの台本によるもの。戯曲化された「瀧の白糸」よりもむしろ、鏡花自身の原作「義血侠血」の筋書を基にしたところも少なくないようだ。ラストシーンで、白糸に死刑を求刑した村越欣弥・検事代理が、大恩人に死を与えた己の所業を憂えて自殺を遂げる、という設定などはその一例である。
 台本の構成は、全体としては比較的よく出来ていると思う。特に金沢地方裁判所における「裁判の場」(第3幕)で、村越欣弥の母親が白糸への恩義を切々と歌うくだりや、合唱が白糸を「あっぱれ潔し」と讃える設定などは、すこぶるオペラ向きの構築であり、効果的であった。

 升平香織の舞台美術および十川稔の演出も――白糸の水芸は概ね省略していたが――旧き日本の雰囲気をよく描いている。第3幕での裁判官や傍聴人たちの構図も、きわめて解りやすい組み立てである。

 千住明の作曲スタイルはごくトラディショナルなもので、所謂「クラシックの現代音楽」の範疇からは遠い位置にあり、いわばTVの大河ドラマの音楽か、シリアスなミュージカル、といった趣か。それだけに、耳あたりは非常に良い。全体にゆっくりしたテンポが基盤となっている印象が強い。
 楽曲の構成は、アリアや2重唱が多く取り入れられている一方、概して――ナンバー制とまでは行かぬまでも――場面ごとに休止・接続されて行くという形が採られている。近代オペラ的な「移行の音楽」は少なく、人物の心理の変化の過程といったものは、あまり描かれない。ドラマとしての起伏感が往々にして乏しくなるのは、そのためもあろう。

 それが最も気になったのは、第2幕の大詰の個所である。ここは、白糸が仕送りのために借りた大切な金を出刃打ちに強奪された挙句、切羽詰って金欲しさに老人夫婦を襲い、殺してしまう――原作とは違い、兼六園で涼んでいた老夫婦を刺殺するという設定だ――場面なのだが、音楽が「移行」の形を採らず、前の場面のあとで一度途切れているので、白糸が逆上して狂乱状態になって行くという心理の変化の過程が、音楽ではあまり明確に描かれない。つまり、彼女がなぜ「あまり金も持っているようにも見えない」老夫婦を襲うのか、音楽の上では甚だ唐突な印象になるのである。このあたりは、台本との関連もあるだろうが。

 題名役の中嶋彰子は、明晰な日本語の歌唱と発音と存在感で、ドラマを独りでもたせたという感。
 演技の面でも、第1幕での「あでやかなる命取りの太夫、大明神様、闊達豪放なる女丈夫」から、第3幕での「残柳の露に俯したるごとく哀れに萎れた」女に変わって行くまでの表現の巧さは、さすがというほかはない。

 他には、南京出刃打ち役の清水那由太が巨体とよく響くバスで悪役ぶりを見事に発揮、また欣弥の母親役の鳥木弥生も裁判の場でのアリアに豊かな情感をこめていた。
 村越欣弥役の高柳圭も健闘したが、歌唱に今一つ安定感を望みたいし、また裁判の場や牢獄の場での演技には、さらに感情を激しく揺り動かす表現があっていいだろう。

 この「牢獄の場」での2重唱は、いかにもオペラ向きの場面として、白糸と欣弥の悲しみをこれでもかとばかり歌い上げるのだが、やや長すぎる。しかも幕切れでは、音楽が終ったあとに早くも拍手が起こってしまったために、欣弥がピストルを頭に擬すという演技が霞んでしまった。ここは演出にもう一工夫を。

 第1幕約43分、第2幕約38分、第3幕約50分。終演は5時を少し過ぎた。客席は超満員だったが、金沢の御当地オペラとしての人気もあったのでは? ちなみにこの公演の主催と制作は、金沢芸術創造財団、高岡市民文化振興事業団、東京ユニバーサル・フィル、石川県音楽文化振興事業団。
     ⇒モーストリー・クラシック5月号

コメント

 新派でも欣弥は自殺してます。

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