2019-05

11・20(水)サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル

   ミューザ川崎シンフォニーホール  7時

 サイモン・ラトルと強豪ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の、今回の日本ツァーのこれが最終公演。
 シューマンの「交響曲第1番《春》」と、ストラヴィンスキーの「春の祭典」という「春」に因んだ作品を前後に置き、その間に樫本大進がソロを弾くプロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」を据えたプログラムで行われた。

 客席は文字通りぎっしりの状態だ。欧州の3大交響楽団が同時期に東京で激突(2004年11月にも同様のケースがあった)したにもかかわらず、その3つとも、すべてほぼ満席だったようである。東京のクラシック・ファンの体力(財力?)も凄まじいもの、と言うべきか。

 シューマンの「春」は、この曲の一般的なイメージとは正反対の、ごつごつした強面の構築で演奏された。筋肉質というか闘争的というか、仁王の如きシューマン像が立ち現れる。この演奏を「あまりに暴力的」だと反発していた知人もいたが、これがシューマンを「19世紀ロマン派の詩人」というイメージから解き放とうというラトルの意図なのかもしれぬ。もちろんこの演奏には、ベルリン・フィルというオーケストラの個性も反映しているだろう。
 しかし、私の好きな第2楽章では――他の演奏に比べれば剛直感は残すものの――安息に満ちた叙情性が充分に表出され、弱音の美しさを際立たせていたのも事実なのである。

 今回は3階席(3C)ほぼ正面で聴いた所為もあってか、巨大な釜の中から沸き上がって来るようなベルリン・フィルの、恐ろしいばかりの物凄い音圧に呑み込まれるような思いを存分に味わったが、その一方で、極端なピアニッシモの響きも印象に残った。これまであちこちで聴いたラトルとベルリン・フィルのナマ演奏の中で、今日ほどその響かせ方が巧いな、と感じたことはない。2曲目のプロコフィエフの協奏曲での、わが樫本大進の嫋々たるリリシズムに富んだソロを支えたオーケストラの響きはその好例で、もちろんがっしりした構築感の範囲ではあったが、極めて優しく、美しいものであった。

 樫本大進がコンチェルトを弾くのを、実は私は久しぶりに聴く機会を得たのだが、「コンサートマスターでなくソリストとしての」彼の音楽が、今なお健在であったことはうれしい。

 最後の「春の祭典」は、まさにラトルとベルリン・フィルの威力を余すところなく発揮した豪演だ。「春のきざしと乙女たちの踊り」で全弦楽器が爆発する個所の音量、厚み、重量感、威圧感からして、並みのオケとは違う。このコンビの「春の祭典」は、つい3か月前にザルツブルクでも聴いたが、あそこの祝祭大劇場よりこちらのミューザ川崎シンフォニーホールの方が音響もずっといいし、よく響くので、彼らのパワーはいっそう壮絶凄愴にこちらへ襲いかかって来る。

 ただ、演奏そのものは、どんなに咆哮しても忘我的な熱狂に陥るタイプではなく、あくまで均衡を重視した厳格な構築を保っている。そのため、第1部での威圧感に慣れてしまうと、第2部ではやや刺激感に乏しくなって来る(贅沢なことを!)というのも正直なところではないか。しかしいずれにせよこれは、並はずれて豪壮な「春の祭典」であった。

 冒頭のファゴットのソロは、何ともまあやり過ぎではないかと思えるくらい、延々としたテンポで艶麗に吹きまくった。あれは先日のザルツブルクでも、昨年ベルリンで録音されたCD(EMIクラシックス TOGEー11089)でもやっていなかったものだ。今回のご愛嬌か?

 そういえば、コンチェルトを弾き終った樫本大進が、「春の祭典」のチューニング直前に飛鳥の如く第1ヴァイオリンの最後尾のプルトの間に潜り込み、楽員と聴衆が大笑いし、コンサートマスターのスタブラヴァまでが、チューニングしながら弓で彼を煽るかのように指し示す、という実に和やかな光景もあった。
 またこれは、通訳の蔵原順子さんから聞いた話だが、サントリーホールでプロコフィエフのコンチェルトのリハーサルを開始する時に、ラトルとベルリン・フィルのメンバーが示し合せ、いきなりメンデルスゾーンのコンチェルトを演奏しはじめるというイタズラをやり出したそうな。ところが樫本大進、少しも慌てず、とっさにみんなに合わせてそのメンデルスゾーンのソロを弾き出してみせた。で、ラトルも楽員も「な~んだ、がっかり」と爆笑になったとか。
 ベルリン・フィルも、おとなのユーモアを解する粋なオケだ。コンマスとしての樫本大進がこのオケによく溶け込んでいる様子も覗われて面白い。

 コンサートの最後は、定石通り拍手鳴りやまず。ラトルはソロ・カーテンコール。聴衆を制して、「この素晴らしい音のホールに戻って来られたのは幸せ」とスピーチ。いつかもそんなことがあった。彼がこのホールを気に入っているのは周知の事実である。
   ⇒日本経済新聞

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