2020-07

11・16(土)マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

   サントリーホール  7時

 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団創立125周年記念として行なわれている今回のアジア・ツァーは、ロシア、中国、日本、オーストラリアなどを回る、ほぼ4週間に及ぶ大規模なものの由。日本での公演は、僅か3日間・3回と慌ただしい。

 今日はその初日。直前の北京公演では「体調不良のため」キャンセルした首席指揮者マリス・ヤンソンスも、元気でその姿を見せてくれたのはうれしい。相変わらず飛んだり跳ねたり、70歳とは思えぬ活力を指揮台上で示すヤンソンスだが、出入りの際に時々咳をしているらしい様子が気になった。
 今日のプログラムは、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」(ソロはエマニュエル・アックス)と、R・シュトラウスの「英雄の生涯」。

 「英雄の生涯」は、2004年11月、このオケが、首席指揮者に就任したばかりのヤンソンスと共に来日した際に取り上げていた曲でもある。
 あの時は予想外にエネルギー感を優先した野性的な演奏――まあ一口に言えば随分荒っぽい演奏で、かつてのコンセルトヘボウ管が持っていた精緻で柔らかい響きは何処へ行ったのかと驚いたものだが、最近出たその直前(9月)の就任記念演奏会ライヴCD(RCO LIVE KKC5284)などを聴くと、なかなかしっとりした雰囲気も漂わせているから、たまたまあの日の演奏がそうだったのかもしれぬ――もっとも録音というのは、マイクのアレンジひとつ、マスタリングの手加減ひとつでどうにでも音を変えられるものだから、必ずしもアテにはならぬが・・・・。

 しかし、9年後の今、ヤンソンスとコンセルトヘボウ管が聴かせてくれた「英雄の生涯」は、このオケの威力を存分に発揮した豪壮な力と、豊麗で温かい色彩感とを併せ持った、素晴らしく魅力に富んだものになっていた。
 弦18型編成の音の厚みは壮麗そのものだし、各パートの交錯により生れる音の空間的な拡がりも、優れた指揮者とオーケストラだけが創り出せる世界だろう。
 その響きも明晰だ。「英雄の業績」におけるシュトラウス自身の旧作のモティーフ群の動きも、内声部にいたるまではっきりと聴き取れる。しかもヤンソンスは、それらモティーフをわざとらしく強調するのではなく、あくまで自然体で音楽を構築する。これもまた、彼の円熟の為せる業ではあるまいか。

 とにかく、オーケストラは、いつもながら巧い。
 ホルンもいいが、私が今回の演奏で特に感心したのは、「英雄の伴侶」で長いソロを弾くコンサートマスターだ。柔らかで優しく、しかも生き生きした表情にあふれたソロは、如何にも「伴侶」の姿を描くにふさわしい。このソロを、時にヴァイオリン協奏曲でも弾いているように名人芸を誇示する心得違いのコンマスもいるけれども、こうしてコケティッシュに、表情豊かに弾いてくれれば、この曲の標題的要素も充分に生きて来るというものだ。彼のリードで、そのあとに続くシュトラウス独特の豊満な叙情の美しさも余すところなく発揮させられたと言えよう。

 なお、全曲最後の3小節での演奏はユニークな形だ。改訂現行版の出版譜では全管楽器と打楽器群がフォルティシモで爆発したあとに、2小節間でdim、最終小節で管楽器群がmolto dim、と指定されているが、ヤンソンスはその2小節間をフォルティシモのまま押し通し、最終小節の強拍に強いアクセントを付けて駄目押ししたのち、初めてdimに移るという方法を以前から採っている。2004年9月のライヴCDでのような小太鼓の猛烈なクレッシェンドは、今回は採っていなかったものの、いずれにせよちょっと変わったやり方である。何か根拠はあるのだろうが・・・・。

 アンコールは同じくR・シュトラウスの「ばらの騎士」からの組曲の最終部分。オケは相変わらず巧いが、恐ろしく威勢が良すぎて、祭典音楽か軍楽のようになったのは些か行き過ぎの感も。これは9年前の演奏の特徴と同じだった。

 第1部で演奏されたアックスのソロによるベートーヴェンの印象がやや薄くなってしまったけれども、これは実に落ち着きのある誠実な演奏の「3番」。
 久しぶりにステージで見るアックスは少し老けた感もあるが、変わらぬ健在ぶりを聴かせてくれたのがうれしい。その演奏には、昔より陰影が増した。アンコールで弾いたシューベルトの「即興曲 作品142-2」も静かで考え深いモノローグのよう。
    ⇒日本経済新聞
    ⇒モーストリー・クラシック2月号演奏会Review

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