2019-11

10・30(水)ムーティ conducts ヴェルディ

    すみだトリフォニーホール  7時  

 これは「東京・春・音楽祭実行委員会」単独主催の特別コンサート。
 東京春祭特別オーケストラ(コンサートマスター・矢部達哉)と東京オペラシンガーズ(合唱指揮・ロベルト・ガッビアーニおよび宮松重紀)を指揮した巨匠リッカルド・ムーティ。

 今夜のプログラムは、第1部に「シチリア島の夕べの祈り」からの序曲とバレエ音楽、第2部に「運命の力」から序曲および「天使の中の聖処女」、「マクベス」から「虐げられた祖国」、「ナブッコ」から「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」および序曲、というものだった。

 2か月前にザルツブルクでローマ・オペラとの「ナブッコ」全曲(演奏会形式)を聴いた時にも感じたことだが、こんにち、情熱と形式感とが完璧な均衡を保った演奏を創れる人として、ムーティに比肩する指揮者はいないのではないかと思う。
 今夜彼が指揮したのは臨時編成のオーケストラだったが、それでも演奏は比類なく熱っぽいものであった。特に最後の「ナブッコ」序曲では、指揮者とオケの呼吸も完全に合い、音楽はまさに沸騰の極みに達し、構築は引き締まって、いちぶの隙もなかったのである。

 合唱団も第2部の3つの曲で活躍、「ナブッコ」の有名な合唱のエンディングの最弱音も見事に決めていた。歌手は、先週土曜日のムーティ講演会で巨匠にギリギリしぼり上げられた2人、安藤赴美子(ソプラノ)と加藤宏隆(バス・バリトン)。加藤は、あれだけのよく響く声を持っているのだから、ムーティから指摘された例の欠点さえ克服すれば、素晴らしい歌手になるのではないかという気もする。

【付・川上哲治選手のこと】

 コンサートの話ではないが、ここで番外編。
 川上哲治氏の訃報に接し、うたた感あり。
 子供の頃の私にとっては、「川上哲治」という名は、巨人軍のみならず、野球の象徴ともいうべき存在だった。「紅梅キャラメル」の景品のカードを貯めて、川上選手のサイン入りのバットを貰った。また往復はがきを出して、彼のサインを貰った。彼が表書きの私の宛名の下に「様」と書き加えて返事をくれたのが、子供心にもすごく嬉しかったものである。

 当時の私はプロ野球がメシよりも好きで、雑誌「野球界」を購読するだけでなくそのバックナンバーをも読み漁り、ありとあらゆる資料を調べて、いろいろな記録を頭に入れていた。
 実際に球場へ観に行った機会は、1950年から58年の間の8度くらいしかなかったが、その見に行った試合のうち、何とほとんど全部の試合に、川上はホームランを打っていたのである。確率から言えば、これは大変なものだろう。

 彼の「弾丸ライナー」伝説は、野球評論家・大和球士氏の小説やエッセイで読んで知っていた。「ボールが外野席に向かって、ぐぐぐっと途中から上って行くように見えた」という一文に、われわれ少年ファンはどんなに熱狂したことか。

 特に、1947年だかの東西対抗試合で打ったホームランこそは、「弾丸ライナー」の決定版だったという――打った瞬間に川上本人は「ヒットだ!」と直感し、全力疾走。一塁手がそのボールを捕ろうとジャンプし、次に走り寄って来た右翼手も思わずジャンプ、しかしボールはその上をかすめ、そのまま右翼スタンドに突き刺さったのだという。如何に弾道の低いライナーだったか、ということだろう。
 塁上にいた大下弘選手もそれを外野へのヒットだと思い、全速力で3塁を回ってホームに滑り込んでしまったそうで、ベンチ内は爆笑の渦だったという(雑誌「野球界」連載「弾丸ライナー」戦後篇)。

 私が観に行った頃には、流石にそういうライナーはもう見られなかったが、しかし例えば旧・後楽園球場の内野スタンドから見ていると、川上のホームランは常にわれわれの目線、もしくはそれより下の位置を飛んで行っていたのである。
 また外野席中段から見ていると、普通のホームランはまず見上げるほどの高さまでボールが上がり、それからこちらに落ちて来るというコースを辿るものだ。が、川上のそれは、打った場所からわれわれの目の高さの位置を保ったまま、まっすぐに物凄いスピードでこちらへ飛んで来るのであった。
 たしか、1950年、中日との試合の時のことだったと思う。川上が打った瞬間、外野席で隣に座って見ていた友人が「来たッ」と叫んで立ち上がった。私もハッとして見ると、ボールがまるでグラウンドから上って来るような角度のまま、一直線にこちらへ向かって来た。私たちを含め、大勢の観客はパッと割れて逃げた。あの凄まじい迫力は、今でも忘れられない。

コメント

東条先生が野球少年だったとは存じ上げませんでした。弾丸ライナーを彷彿とさせるお話に胸躍りました。

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