2019-05

10・17(木)ラドゥ・ルプー・ピアノ・リサイタル

    東京オペラシティコンサートホール  7時

 手の故障で公演を一部中止した昨年と違って、今年は多分本領を発揮出来たと思うのだが――ルプーが今回演奏してくれたプログラムは、シューマンの「子どもの情景」と「色とりどりの小品」、およびシューベルトの「ピアノ・ソナタ第20番イ長調」というものだった。

 いずれもたっぷりとした温かみに富んだ情感の深い演奏で、作品それ自体が持つインティメイトな美しさをあますところなく再現した、見事な音楽づくりだったと思う。
 だが、その美しさと深さにもかかわらず、その演奏が、何とまあ極度に沈潜して、しかも屈折した世界に感じられたことか。休憩時間に出会った複数の知人が「子どもの情景」の演奏を「少し病的な子どものよう」と評していたのは、言い得て妙かもしれない。

 また、たとえばシューベルトのソナタなど、いつもはあのフィナーレのロンドの主題が出て来ると、何か暖かい陽光がぱっと拡がる場所に戻って来たような解放感に浸れるのだが、今回のルプーの演奏では、その主題さえもがある種の憂いを含んだ、心を外に向かって開くことなく続けられる独白のように聞こえたのである。

 ルプーは、ますます自己の内部に沈潜して行っているように感じられる。
 だが彼の演奏の素晴らしい点は、決して緊迫感を失うことがなく、作品の隅々にまで美しさを行き届かせており、しかも決して曲の骨格を崩すことはないということにもあるだろう。私たち聴き手が非常な緊張を強いられながらも、結局その演奏に納得させられてしまうのは、これらの美点のゆえではなかろうか。

 シューベルトのソナタは、私がたまらなく好きな曲だが、今夜は聴き終ってぐったりするほど疲れたものの、聴いている間は実に幸福な気持だった。

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