2019-11

10・8(火)MET ショスタコーヴィチ:「鼻」

   メトロポリタン・オペラ  8時

 2010年3月にプレミエ(3月18日の項参照)された、ウィリアム・ケントリッジ演出によるプロダクションの再演だが、これは文句なくMETの傑作だろう。MET総支配人ピーター・ゲルブが就任に際し、意欲満々のうちに制作したプロダクションであった。

 今回もワレリー・ゲルギエフが指揮、主人公のコワリョーフ(少佐、8等官)をパオロ・ジョット(ブラジルはサンパウロ出身)、警察署長をアンドレイ・ポポフ(サンクトペテルブルク出身)という具合に、中核にはプレミエ時の顔ぶれを揃えている。
 歌を少しでも歌う登場人物はたいへん多いが、配役表を見ると、ゲンナジー・ベズズベンコフ(医者他)、ウラジーミル・オグノヴェンコ(床屋)、セルゲイ・スコロホドフ(下男イワン)ら、脇役でも重要な役にはマリインスキー劇場系のベテランを起用し、言葉と音楽の面を引き締めているようである。

 とにかく、みんな歌も演技も達者だ。中でもやはりパオロ・ジョットの活躍は前回同様に目覚しく、鼻を失ったコワリョーフの喜怒哀楽を見事に描いて、観る者を笑いに誘い込む(今夜の客はなぜか著しく静かだったが)。METデビューだった前回に比べ、演技にも歌唱にも余裕が感じられる。なお、確か前回は「脱落した」鼻のところに何か黒いものを貼り付けていたように思ったが、今回は特別なメイクは全くなし、つまり常にオリジナルの(?)鼻をそのままで演技していた。

 ほかに、出番は多くないが、教会の中での陰歌とポットーチナ夫人の娘役とを受け持っていたイン・ファンというソプラノが、清純な声と明るい容姿で映えていて、今後注目される存在であろう。中国出身で、これがMETの舞台デビューだそうである。

 ウィリアム・ケントリッジの、こま撮りアニメの映像を活用した傑作な舞台については、前回に述べたとおり。
 才気煥発、機知縦横、変幻自在という表現がぴったりの舞台だ。アニメから映画から字幕まで、目まぐるしくいろいろな映像が飛び交う舞台だが、その映像が音楽の動きと寸分の違いもなく合い、しかも舞台上の登場人物の動きとも完璧な均衡を保って進められて行くので、その手際の良さに観客も舌を巻きながら眺めるということになる。

 忍び足で歩いて行く2本足の生えた鼻、赤旗(今年は完全な赤色ではなかった)を振り回して人々をアジる鼻、ドレスを着て踊る鼻など、どれもユーモアたっぷりだし、特に「手紙の場」でポットーチナ夫人母子の部屋とコワリョーフの部屋とをアニメの手紙と矢印が往復するあたりの手法は見事なアイディアであった。

 登場人物たちの右往左往ぶりも、少々乱痴気騒ぎではあるものの、アイロニーにあふれてすこぶる巧妙である。ただし、この舞台上の人物の動きの演出などは、いかにアニメの天才ケントリッジであっても手に余るのではないかと思われるが、共同演出として名を連ねているLuc De Witとの作業の分担がどういうものであったかまでは、私は承知していない。

 とにかく、これがMETライブビューイングでも近々上映され、多くの人の目に触れるというのは、喜ばしいことである。

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