2019-07

9・15(日)沼尻竜典指揮 ジョエル・ローウェルス演出「ヴァルキューレ」全曲

     神奈川県民ホール 大ホール  2時

 今日は別キャスト。
 ジークムントを望月哲也、ジークリンデを橋爪ゆか、フンディングを山下浩司、ヴォータンをグリア・グリムズレイ、ブリュンヒルデをエヴァ・ヨハンソン、フリッカを加納悦子。そして8人のヴァルキューレたちを岩川亮子、増田のり子、磯路美樹、三輪陽子、日比野幸、森季子、小林久美子、渡辺玲美、という顔ぶれ。

 歌手が変わると、演技内容も全然違って来るようである。
 まずジークリンデの橋爪の演技。第2幕の「死の告知」の場面で、ブリュンヒルデの姿も見えず、その声も聞こえないジークリンデが、「ジークムントは誰と話しているのだろう? もしかして錯乱したのでは?」と訝り、気遣いつつおろおろしている様子は、今日の方がずっとよく表現されていた。昨夜は、むしろジークリンデが目覚めたまま錯乱しているかのように見えたのだ。

 もう一つの例は、ブリュンヒルデのエヴァ・ヨハンソン。
 第2幕冒頭の「ホーヨー・ト・ホー」前半の4回を、馬力一杯、妹たちを脅かすように叫ぶ演技は、吹き出したくなるくらいコミカルで、秀逸だった。
 しかしそれよりも驚かされたのは、大詰「ヴォータンの告別」で、ヴォータンが現在の生身の娘ブリュンヒルデよりも、幻想上の少女時代の娘を慈しむ個所だ。ここでは、彼女の性格は、昨夜のそれとは正反対に描かれていたのである。
 昨夜の横山恵子は、少女時代の自分(助演者の女の子)を、自らも愛おしげに見つめていた。
 しかしエヴァ・ヨハンソンは、父親の本心見えたり――とでもいう、父ヴォータンへの失望感と侮蔑、あるいは憐憫をあからさまに顔の表情に浮かべて、不快な顔でそっぽを向いているという演技であった。ドラマの性格からすれば、こちらの方が自然ではないか? この方が、父娘の心理に、複雑な要素が増す。本来は余計で不要な場面設定だと思うが、やるならこのくらいにやった方がよろしかろう(だが一体、演出家はどちらを狙っていたのだ?)。

 とにかくエヴァは、ここに限らず、随所で実に表情の細かい演技を繰り広げていた。さすがに場数を踏んだ歌手だけある。私は彼女のヴァルキューレ役に接したのは、数年前のエクサン・プロヴァンス音楽祭とザルツブルク音楽祭、あるいはウィーン国立歌劇場以来のことだが、相変わらず声の馬力は凄いし、演技も細かいし、見事な際立ちぶりである。グリムズレイの力強い声と、比較的抑制された演技とのコンビは、実に見事であった。
 それゆえ第3幕後半は、この2人だけで充分。これで「魔の炎」が燃え、管弦楽が炎のゆらめきを奏し続けただけで、われわれは完璧に感動できたであろう。何もわざわざ(薄暗い)ヴァルハルのヴォータン一家の居間に場面を戻すような煩わしい演出をして、素晴らしい「魔の炎の音楽」から観客の感覚を逸らしてしまう必然性がどこにあろう。

 日本勢の歌手陣は、今日も順調だった。望月は若々しい声で、純な青年といったジークムント像を熱演。橋爪は最近クンドリ(東京二期会の「パルジファル」)やゼンタ(山形響の「さまよえるオランダ人」)などでワーグナーづいているが、今回も体当り的な熱演で、伸びのある豊かな声が見事だった。加納悦子は、幽鬼のようなメイクで冷徹さを出していたが、グリムズレイのヴォータンを論破する時に、歌唱にさらなる凄みがあれば文句なし。

 沼尻の指揮は、昨日より良い意味での解放的な雰囲気を感じさせ、特に第3幕での昂揚感はいっそう増したと思われる。弦の弱音のトレモロなどをもう少し強く明確に出してもらえれば、音楽にも厚みと意志力がもっと生れるのではないかと思うが如何。オケに金管のミスが目立ったのは、疲れが出たのかしらん。

 昨日の終演後の打ち上げで、小山由美さんと「ヴォータンへのコップの水のぶっかけ」について話をしていた際のこと。
 ヴォータンの飲み残しのコップを受け取ったフリッカがその残りの水を彼の顔にぶっかけるという設定なので、「なるべく水が少なくなるまで飲んでおいてね」と事前に青山氏と打ち合わせておいたのだそうである。
 ところが今日のヴォータンが飲んだコップには、まだ4分の1くらいの水が残っていたので、オヤオヤと思っていたら、加納さんはそれを、物凄い勢いで真正面からヴォータンの顔にぶっかけたのであった。瞬間、水しぶきが上がり、グリムズレイも、ウワッ、ホントにやりやがった、という表情で顔をしかめていたが、それが地だったのか演技だったのかまでは、判らない。

 このプロダクション、次の土曜・日曜にびわ湖ホールで上演される。あのホールは音響もいい上に、舞台機構も完備しているから、場面転換ももう少しスムースに行くかもしれない。

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