2020-04

6・29(土)新国立劇場 香月修:「夜叉ヶ池」

    新国立劇場中劇場  2時

 今年が生誕140年にあたるとあって、泉鏡花の作品を基にしたオペラの上演がこのところ流行る。

 今年2月には水野修孝作曲の名作「天守物語」(1979年舞台初演)の何度目かの上演が新国立劇場で行われたほか、昨年12月には池辺晉一郎が作曲した「高野聖」が初演され、今回はこの香月修作曲の「夜叉ヶ池」の初演となった。また、秋には千住明が新しく作曲する「瀧の白糸」(「義血侠血」に拠る)が中嶋彰子主演で初演されるとのことである。

 「夜叉ヶ池」は、新国立劇場の委嘱作で、尾高忠明芸術監督から「口ずさめるような親しみやすい歌のあるオペラを」との註文を受け、香月修(桐朋音大教授、日本作曲家協議会副会長他)が作曲したもの。

 親しみやすいかどうかはともかく、たしかに極めて耳あたりの良い、平明な音調で書かれていて、肩の凝らない怪談的民話オペラとしての性格が打ち出されている。現代音楽にうるさい学究的なお歴々からは怒りを買うタイプかもしれないが、こういうオペラがあって悪いということはあるまい。

 音楽の構成に「山場」や「追い込み」があまりなく、クライマックスの過程にも緊迫感が不足する、というのが(わが国の創作オペラの特徴として)相変わらず不満の残る点だが、今回は十束尚宏が東京フィルハーモニー交響楽団を指揮して、引き締まった演奏を聴かせてくれたので、かなり快く聴けたのは事実であった。
 彼の指揮が久しぶりに聴けたのもうれしい。

 歌手陣はダブルキャスト。今日の組では2人の女声主役が映え、腰越満美(白雪、夜叉ヶ池に住む妖怪)が貫録と重厚感で聴かせ、砂川涼子(百合、人間の女)が最後の怒りの自決の場で凛とした美しさを見せた。
 他に妖怪グループは、羽山晁生(鯉の妖怪)、大久保光哉(蟹の妖怪)、志村文彦(鯰の妖怪)、森山京子(万年姥)。人間グループは西村悟(晃)、宮本益光(学円)、妻屋秀和(鉱蔵)ほかの人々。新国立劇場合唱団と世田谷ジュニア合唱団が共演。

 台本は、作曲者と、今回演出を担当した岩田達宗とによるものだ。2幕計2時間弱という手頃な長さに巧くまとめてある。
 原作をかなり切り込んであり、その点では要を得たものと言えるが、半面、夜叉ヶ池の主たる妖怪・白雪の行動に少し曖昧で説明不足の点が生じるということも出て来た。一体、彼女の正体は何で、彼女の狙いは何だったのか? 
 白雪の演技はどちらかといえば静的なものだったので、さすがの腰越満美も、以前の富姫(天守物語)や西郷千恵子(白虎)で示したような鮮やかな性格描写を発揮する余地がなかったのだろう。

 岩田達宗の演出は、妖怪(自然)の天真爛漫さや純粋さと、村人(人間)たちの驕り昂りの悪を対比させ、信仰を忘れた人間どもが自滅して行くという、このドラマの本質を巧く描き出していた。
 ただ――いかに幻想的な妖怪オペラの場合ではあっても――もう少し理詰めの説明が欲しいところではある。でないと、「何でそうなるの?」という疑問が、観客の頭の中には残ることになるだろう。

 私が気に入ったのは、二村周作の舞台装置と、沢田祐二の照明だ。
 いかにも神々か妖怪が(一緒にしてはまずいか? しかし両者とも畏敬すべき自然の象徴だ)棲みそうな雰囲気を感じさせる森や巨木を組み合わせ、回転舞台をも使って巧みに怪奇な雰囲気を出す。日本人の故郷への郷愁の心情に訴えかけるような光景である。こういう舞台装置こそ、民話オペラの真髄というべきものなのであろう。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/1686-cf84bbbb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

最近の記事

お知らせ

●2007年7月以前のArchivesを順次、アップロード中です。併せてご覧下さい。
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2006年7月

Category

ブログ内検索

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」