2020-05

6・22(土)いずみホール・オペラ ヴェルディ:「シモン・ボッカネグラ」

    いずみホール(大阪) 4時

 いずみホールは、大阪の環状線・大阪城公園駅のすぐ近くにある。
 客席は821とのことだが、内部の景観はすこぶる壮麗で、広大に感じられる。紀尾井ホールや山形テルサホールとほぼ同等の客席数のホールとはとても思えないほどの、広い空間だ。

 演奏会用ホールではあるものの、ホールの自主企画としてセミ・ステージ形式のオペラをも定期的に制作している。私も、これまでに「カーリュー・リヴァー」(ブリテン)や「ランスへの旅」(ロッシーニ)などを観た。上演水準はどれも極めて高い。意欲的なホールの姿勢である。

 今回の「シモン・ボッカネグラ」上演では、河原忠之指揮のザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団と合唱団がステージ上に並び、堀内康雄(シモン・ボッカネグラ)、尾崎比佐子(アメーリア、本名マリア)、花月真(フィエスコ)、青山貴(パオロ)、松本薫平(アドルノ)、萩原寛明(ピエトロ)ら歌手たちが、その奥の一段高まった舞台で簡単な演技を繰り広げつつ歌うという形。演出は粟國淳が担当した。

 何しろコンサートホールの残響豊かなアコースティックのせいで、オケの音も歌手の声も、まあよく響くこと、響くこと。客席後列まで、音がビンビン来る。
 その優秀な音響の応援を得て・・・・と言っては差障りがあるだろうが、とにかくこれほど朗々として爽快な日本人歌手のオペラを聴いたことは滅多になく、実に気持のいいひと時だった。

 いや、それはただ声がよく響くという以上に、歌唱の水準がすこぶる高かったからであろう。
 特にタイトルロールの堀内康雄は、まさに千両役者の貫録というべく、風格のある歌唱に総督としての威厳、父親としての苦悩などの表現を巧みに織り込み、さらに若い時代のシモンと老境に入ったシモンとを見事に(まさに別人のように!)歌い演じ分けて、音楽と舞台を圧倒的にリードしていた。彼を起用したことが、今回の上演の成功の第一と言っていい。

 パオロを歌った青山貴も、仇役としての微妙な立場を巧く表現して存在感を発揮した。アメーリア(マリア)の尾崎比佐子は、前半ではちょっと力が入りすぎていたのか、強いヴィブラートが気になったが、後半は均衡を取り戻して美しい歌唱を聴かせてくれた。
 フィエスコを歌った花月真は、牢に幽閉された囚人としての疲れ切った暗さと、シモンを圧倒する精神力とを歌い分けて後半を締め括ったように感じられる。一方、アドルノの松本薫平も熱演だったが、それまでのシモンへの敵視が敬意に変わるくだりなどではもう少し表現に細やかさが出てもいいだろう。

 河原忠之指揮のザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団も、よく鳴るホールの音響を最大限に利用しての強大かつ劇的な演奏。ヴェルディのオーケストラ・パートが、決して単なる伴奏的な立場に留まるものではなく、ドラマをリードする存在であることをはっきりと聴衆に印象づけてくれる(オペラのオケは、このくらい鳴らないと面白くならないのである。ヨーロッパのオペラ上演では、オケの威力は凄い)。
 また、同合唱団はバルコン席両側に配置されたが、これは音響上でも舞台を包み込むような面白い効果を出していた。

 演出は、今回は制約された空間ということもあって、特にその存在を主張するほどでもなかったであろう。
 注文をつけるとすれば、登場人物の海賊・貴族・平民の相関関係と、敵方・味方(対立勢力)の対比をもっと巧みに出してくれれば、ただでさえややこしいストーリーの内容も聴衆によりよく理解できたであろう、ということ。
 それにもう一つ、ラストシーンで、死に行くシモンが傍にいる娘に「マリア、お前の腕の中で死なせてくれ」と呼びかけているのに、彼女が知らん顔をして恋人アドルノにくっついたままでいるのは、随分冷たい娘じゃないか・・・・ということ。会場で会った知人たちの中にも、これについて私同様、憤慨している人たちがいた。

 このラストシーンの件については、粟國氏に直接尋ねる機会を得ていない。
 人づてに伝わって来た説明では、「シモンは孤独のうちに死ぬのだ」とか、「周囲の人間は、狂乱している彼に近づけなかったのだ」とかいろいろあったが、どれも納得できる理由に乏しい。
 そこで、私があとで勝手に創り出した解釈はこうである・・・・シモンが呼ぶ名「マリア」は、実は25年前の彼の恋人の名でもある。したがってシモンはアメーリアの母親にあたる女性マリアを死の幻想の中で思い浮かべているのであり、娘のことではなかった・・・・それを彼女が察知したがゆえに、父親に近づかなかったのだ、という、「母親への嫉妬が混じった心理的な分析」であります。
 しかしそれならそれで、もう少し演出のしようもあるだろうに、ということにもなるだろう。まあ、どうでもいいけれど。

 大阪までオペラを観に行くのも、それがマチネーの場合には、今や日帰りコースだ。とはいえ、11時半頃の「のぞみ」で品川駅を発ち、4時からのオペラを観、7時頃に終演、そのあとの打ち上げにちょっと顔を出し、8時半頃の新幹線に飛び乗って深夜11時半頃に帰宅するというのは、このトシでは、さすがに疲れる。
 だが、疲れるけれども、いい演奏、いい上演に接すると、その疲れも吹っ飛ぶもの。それが、音楽の力の素晴らしいところではある。

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/1679-b7dbb4a4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

ブログ内検索

お知らせ

●2007年8月以前のArchivesを順次、アップロード中です。併せてご覧下さい。
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2006年8月
2006年7月
2006年4月
2006年3月
2005年12月
2005年8月
2005年4月
2005年3月
2004年4月

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」