2017-10

6・18(火)児玉宏指揮大阪交響楽団
「トリスタン秘話~マティルデ・イゾルデ・マルトゥッチ」

    ザ・シンフォニーホール(大阪) 7時

 これは実にユニークで面白い企画。ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」からの音楽と、それと並行して作曲された「ヴェーゼンドンク歌曲集」とを組み合せて演奏するという試みである。

 具体的に言うと、「トリスタン」からの「第1幕前奏曲」と「愛の死」を最初と最後に置き、その間に「ヴェーゼンドンク歌曲集」(管弦楽編曲版)を、出版楽譜による順番でなくオリジナルの「作曲順」に並べ換えて配置、更にそれぞれの歌曲の間に「トリスタン」のあちこちから採った(しかも時間軸順を崩さず)音楽を巧みに組み合わせて挿入し、全体を抵抗なく切れ目なしに続けて演奏する――という、凝りに凝った構成だ。
 演奏時間も50分前後と、長大な作品になった。

 これは、大阪響・音楽監督の児玉宏が数年間あたためていた企画で、「トリスタンとイゾルデ=ワーグナーとマティルデ・ヴェーゼンドンクの2組の恋人たちの愛の軌跡を同時進行で描き出すのが狙い」だという。

 「トリスタン」の音楽をすべて覚えているワグネリアンなら、楽劇のどの個所から採られた音楽がどう巧く組み合わされているか、それらが歌曲それぞれとどのように巧く接続されているか、それを謎解きするだけでも、大変なスリルに違いない。
 私もこの演奏会のプログラムの解説を担当したので、バラバラに添付されて来た「トリスタン」の抜粋譜を総譜のどの部分に当るか探し出し、註釈を加えるというパズルのような愉しみを味わったが、さすが児玉氏が練りに練っただけある、と、その緻密な設計に舌を巻いた次第である。

 とりわけ、「天使」のあと、恋人たちが秘薬を飲んだ直後のおののきの音楽に移り、イゾルデがトリスタンとの愛に全てを捧げる悦楽を歌う個所に続き、更に愛の2重唱直前の部分が演奏され、そのまま同じ音程で「夢」に入って行くという構成など、ワグネリアンなら「やってくれたな」とニヤリとするだろうし、そうでない人も、いつの間に歌曲に入ったのかと、その続き具合の見事さに感心しただろう。
 あるいは、「トリスタン」の第3幕前奏曲の一部が引用されたあとに「止まれ」と「温室にて」が演奏され、楽劇と歌曲集との連関を明確に聴くことができたというのも、面白さを倍増させたに違いない。

 児玉の指揮も、さすがにオペラでの修羅場を踏んで来ている人だけあって、バランスを心得て見事なもの。大阪響も柔らかい豊麗な音を響かせた。ワーグナー特有の和声の美しさを充分に出していたことは、演奏の良さの証明だろう。
 歌曲と「愛の死」を歌ったのは、ベルギーのソプラノ、エレーヌ・ベルナルディ。本番の1時間半前まで行なわれたゲネプロでもフル・ヴォイスに近い声で歌うというタフネスぶりだったが、本番はやや表情を濃くして歌い、変化の妙を見せていた。

 こういうユニークな企画こそCD化して欲しいところだが、今回はロームからの予算援助がなかったとことで、不可能らしい。残念だ(NHK-FMの収録が入っていたのがせめてもの救いか)。

 休憩のあとには、この「トリスタン」を1888年のボローニャにおけるイタリア初演を指揮したジュゼッペ・マルトゥッチの「交響曲第1番」が演奏された。
 これまた長大重厚な作品で、滅多に聞ける曲ではない。珍しいレパートリーを開拓する児玉=大阪響の面目躍如たるところだろう。
 ブラームスの影響を強く受けた――受け過ぎた、と揶揄もされるマルトゥッチの交響曲だが、確かにこの曲の第2・3楽章には、ブラームスそっくりの楽想がたくさん出て来る。もっとも、似ている個所よりは、似ていないところの方が多い。
 ではお前にとって面白い曲だったか、と問われれば、諸手を挙げてそうだとも言えないのだが、・・・・先日の児玉&大阪響の東京公演でも取り上げられた同じマルトゥッチの「夜想曲」と併せて、貴重な体験だったことは間違いない。チェロの長いソロも、素晴らしかった。

コメント

ワーグナー、良い企画でしたし、とても良い演奏でした。
しかし、静寂を切り裂くような「ブラボ」にはビックリでしたが、
ああいうのを、どう思われますか?

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