2020-04

6・9(日)大植英次指揮東京フィルハーモニー交響楽団

   BUNKAMURAオーチャードホール  3時

 今日の演奏会の方が、大植英次と東京フィルの魅力全開、本領発揮である。
 山田耕筰の「序曲ニ長調」で幕を開け、大植の恩師バーンスタインの「ミュージカル・トースト(音楽で乾杯)」という小品および「キャンディード」組曲(ハーモン編曲)、最後をベートーヴェンの「第7交響曲」で閉める、というプログラム。

 この日、大植が着用していた白い上着は、バーンスタインが最後の演奏会で着た上着を譲り受け、仕立て直したものだとのこと。それを着て、師の作品と、師が最後の演奏会(タングルウッド)で指揮した最後の曲目であるベートーヴェンの「7番」を指揮するのだから、彼としては師の霊とともに指揮台に立つような気分だったことだろう。

 それもあってか、今日はすべての演奏が沸騰して熱気にあふれていた。東京フィルも充分沸き立っていたし、もちろん第1ヴァイオリン群も金曜日と違って張りのある音を聞かせてくれた(弾き方やホールや、こちらの聴く位置にもよるのだろうが、不思議だ)。

 「ミュージカル・トースト」では、オーケストラの楽員が歌う「アンドレ・コステラネッツ」という歌詞(この曲は彼への追悼とのこと・プログラム掲載の松岡由起氏の解説による)を、東京フィルの楽員が本番の時だけ「Viva Eiji Oue」と言い換えて指揮者を驚かせた(演奏後、袖に引っ込んだ大植が「みんな、なんか(僕の名前を)言ったぜ」とびっくりしていたという話を聞いた)。

 「キャンディード」組曲は、有名な「序曲」も、「着飾って、きらびやかに」も入っていない選曲だが、しかし要領を得た編曲で、燃え立つような勢いのいいリズムの演奏が爽快を極める。ハーモン編曲のこの組曲版は、大植とミネソタ管弦楽団に捧げられており(スコアの最初のページの曲名の上には「For Eiji Oue and Minesota Orchestra」と麗々しく印刷されている)、これも彼の誇りの一つだろう。

 ベートーヴェンの「7番」では、さすがにチャイコフスキーを指揮する時とは異なり、リズムのエネルギー感を噴出させたストレートな表現となった。
 ただ、第4楽章で、あのリズム動機が2発叩きつけられるあとでその都度長めのパウゼ(休止)を取るのはいいとしても(全く私の好みではないが)、コーダに入ったところ(第352、354小節)でもこのテを繰り返すのは、せっかく奔流のように進んで来た音楽を堰き止めるような結果を生むので、賛成はしかねる。もちろん彼としては、そこで音楽が新しいステージに入ったことを示したかったのだろう。たしかにそういう面白い効果はうまれていたが、少々くどさも感じさせるのだ。
 東京フィルは、第1楽章提示部でのフルートのソロに楽器の故障か、妙な雑音が混じったことを除けば、見事な盛り上がりだった。

 冒頭に置かれた山田耕筰の「序曲」は、今日が彼の誕生日であることに因んだものか。わが国最初の大規模な管弦楽曲とも言われるが、ドイツ前期ロマン派の作風をモデルにしていて、ウェーバーそっくりの音楽になっている。ナマで聴いたのはこれが初めてで、貴重な体験であった。

 「キャンディード」が終ろうとする瞬間に騒々しくブラヴォーを叫び始めた御仁が1階中央下手側にいた。全く常識外れな人だ、と白けた気持になる。
 だが、そのあとの客席の拍手が妙に薄く、後方上階席あたりからしか聞こえて来ないのに驚き、周囲を見渡すと、何故か皆、手は動かしているけれど、音を出していないのだった。音を立てなければ、演奏者への賞賛にならないだろうに!(ステージから見えればいいというわけか?)。
 さらに、私の後ろに座っていた初老の御仁は、手も叩かずにふんぞり返ったまま、大植の派手なカーテンコールでの身振りを見ながら連れに「吉本の芸人タイプだよ、あれは」などと解説しているのだった。いったいあなた、何しに来たんですか、拍手くらいしたってバチはあたらんでしょうが、と文句の一つも言いたくなる。
 この種の手合いに比べれば、最前のフライング・ブラヴォー御仁の方が、よほど演奏者と一体になるという熱意があるだろう、などと思い直した次第であった。
      ⇒音楽の友8月号 演奏会評

コメント

 同じコンサートを聴いておりました。楽しく盛り上がったコンサートだと思いました。
 「Viva Eiji Oue」だったのですね。私は「Eiji Oue」だけ聞き取れて,曲が終わった後指揮者がオーケストラに深々と礼をしたので,「オーケストラが何かサプライズを仕掛けたな」と思ったのですが,おかげさまで謎が解けました。
「第7」の第4楽章の盛り上がりとテンポの恐ろしい速さ(たぶんカルロス・クライバーよりも速い)はすごかったと思いますが,反面,第2楽章の悲劇性があまり感じられず,そこだけは欲求不満です。
 でもトータルでは満足した演奏会でした。

彼がバーンシュタインの広島平和コンサート(カーデッシュ)前座で指揮していた頃は借りてきた猫のようでした。それが今ではおお化け猫になっています。
大阪では身近に聞けた彼が東京に活動を広げつつあるのでしょう。彼の乗りは大阪人ののりというより広島人(広島カープ?)ののりだと思います。より飾り気無しです。お楽しみください。

燃えてました

いつも日記を楽しみにしております。
先生のレビューは簡潔なインパクトがあって、行った気分にさせてくれます。

この公演は、聴いていました。指揮の熱さは漫画チックに見えますが、出てくる音は正統ですね。
あの掛け声、ナントかオーイェーイ!と聞こえてましたが、大植!だったんですね しかもサプライズだったとは 東京フィルは粋なことやりましたね
ベト七の3、4楽章 燃えました! 最高!

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