2020-04

6・3(月)HJリムのベートーヴェン ピアノ・ソナタ・ツィクルス初日

   浜離宮朝日ホール  7時

 EMIからCDが次々と出て話題になっている韓国出身の若い女性ピアニスト、HJリム(本名は「リム・ヒュンジュン」とのこと)のベートーヴェンのピアノ・ソナタのツィクルスが開始された。
 朝日ホールで、今月21日まで8回にわたり30曲(第19番と20番は含まれていない)が演奏される。

 この若さで、すでに一昨年に最初のツィクルスを行い、全集CD(ここでも前出の2曲を除く)を出し、膨大かつ詳細な解説文を自ら書き、プレトークをやり、しかも初日の1曲目をあの巨大な「ハンマークラヴィーア・ソナタ」で開始する。恐れを知らぬ突撃猛進ぶりである。若さ噴出、その意気や良し。
 今夜のプログラムは、そのあとに第11番と、第26番「告別」。

 意気軒昂はいいけれども、正直なところ、聴いていると非常に疲れる。
 だいたい私は、大きな高い声で、しかも猛烈な早口で喋り続ける人というのは、ふだんから苦手だ。彼女の演奏は、ちょうどそんな人の喋り方に似ているような気がする。極めて速いテンポで、常にフォルティシモで、慌ただしいルバートを多用しながら進んで行く。アレグロはプレストに近く、しかも常に一貫してハイ・テンションを保つ。

 そもそも、ベートーヴェンの音楽が並外れた力動性を備えているのは周知の事実だが、といって、そのダイナミズムのみを極端なまでに追求するというのは、如何なものか? そして、彼女の今の演奏には、あまりに速いテンポで弾き飛ばすために、音符の一つ一つに明晰さを欠く部分が多く、主題の形そのものが崩れてしまうという欠点が少なくない。これも、今後の課題だろう。

 私の好みには全然合わないというのは確かだが、翻って考えてみれば、これはまた、ある意味で面白いベートーヴェンが出て来たという気もする。21世紀の東洋の若者は、伝統の枠に嵌ることなく、こういうハードロックのような音のベートーヴェンを、誰に憚ることなく打ち出せるようになったのだ・・・・。 
 しかも彼女は彼女なりに、解説文においてベートーヴェンのプロメテウス的な特質を論じ、それに基づいて、このテンポやデュナミークの正当性を主張しているのである(プレトークでも、自らピアノを弾いてそれを証明して見せていた)。そこには若さゆえの一方的な論旨も見られるけれども、傾聴するだけの価値はある。
 HJリム、まだ若い。これからもいろいろに変わって行くだろう。

コメント

あのピアノを聴いたあとで氏の思いを拝聴すると、何か非常に切なくなってくるのである。何を聴いても、何も感じなくても、仕事のために書かなければならぬ氏のやりきれなさは如何許りであろう。何故なら、あの閑散とした空間でさえ疎外感を感じている筈であるから。もし、疎外感を感じていないのであれば・・・。

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