2020-05

3・23(土)ヴェルディ:「椿姫」

  神奈川県民ホール  2時

 恒例となったびわ湖ホール、神奈川県民ホール、東京二期会、神奈川フィル、京都市音楽芸術文化振興財団の共催によるオペラ。
 びわ湖ホールでは3月9日と10日に上演されており、ここ神奈川県民ホール公演は今日が初日だ。

 指揮は、このシリーズを一貫して指揮している、びわ湖ホール芸術監督・沼尻竜典。
 演出は今回、アルフォンソ・アントニオッツィが担当している。
 配役はダブルキャストで、今日は砂川涼子(ヴィオレッタ)、福井敬(アルフレード・ジェルモン)、黒田博(ジョルジョ・ジェルモン)、小野和歌子(フローラ)、鹿野由之(医師グランヴィル)その他の人々。合唱はびわ湖ホール声楽アンサンブルと二期会合唱団、管弦楽は神奈川フィルが務めた。

 アントニオッツィの演出は、舞台美術(パオロ・ジャッケーロ、ボローニャ歌劇場製作)および照明(アンドレア・オリーヴァ)ともども、暗い。「華麗なイタリア・オペラ」などというイメージの対極に在る。
 第2幕第2場など、夜会客がひしめく舞台奥は時に暗黒にさえなる。おまけに、余興の「闘牛士の場面」では、映写機が持ち出され、下手側の壁のカーテンが除かれスクリーンが現われたので、なるほど闘牛士のダンスの代わりに映画を写すとは、ダンサー分のギャラの節約にもなるし、いいアイディアだ、と一瞬感心したのだが、なぜか最後まで何も写らず、はなはだ間の抜けた場面となってしまった。舞台上演に事故はつきものだけれど、これは珍しい大事故である。これで舞台の陰鬱さが更に強調される結果にもなったが・・・・。

 演技は全体的におおまかで、精妙な心理ドラマとしての舞台は見られない――これは私にとっては、不満だ。
 第2幕最後の大アンサンブルは、主役たちが前面に並び、全員が直立不動で歌い、あたかもセミ・ステージの如き趣を呈する。これもあまり面白くない光景だが、一つ思わぬ効果といえば、通常の上演よりもソリストたちの声が前面に浮き出し、背後の合唱との対比が明確になるという、一種のコンチェルタンテのような面白さを感じさせたことだろうか。

 凝ったアイディアといえば、第3幕で「ヴィオレッタ」を2人存在させたことであろう。1人はアルフレードとの再会の喜びを空想する「ヴィオレッタの幻想上の分身」(もちろん歌って演技するのはこちらである)であり、もう1人は死の床に伏したまま動かぬ、「孤独の裡に寂しく息を引き取って行くヴィオレッタ」である。

 沼尻の指揮は、この非常に陰影の濃い演出と軌を一にしていた。つまり華麗さを避け、テンポをやや遅めに採り、明晰清澄な音色ながらも冷徹なほどの表情を以って「椿姫」の音楽をクールに描き出したのである。
 おそらく彼には、とかく華やかな効果に陥りやすい「椿姫」の音楽から、暗鬱で悲劇的な要素を徹底的に引き出そうとする意図があったのだろう。それはそれで、一つの解釈であり、見識であろうと思う。

 ただ、第2幕第2場での「賭け事の場」から「アルフレードとヴィオレッタの対決の場」にかけてのテンポ設定には、やや緊迫感に欠けるところがなくもない。それを含め今回の演奏は、ヴェルディ特有の聴き手をわくわくさせるような劇的な熱気は排除されていたとも言えよう。これは、些か音楽的な欲求不満をオペラ・マニアに抱かせたのではなかろうか?

 歌手では、砂川涼子の成長が目覚しい。これまではリューとかミミとかパミーナとか、所謂可憐な役どころしか聴いたことがなかったので、このヴィオレッタのような劇的な役柄を、かくも見事に演じ歌い、新境地を開拓しつつあるとはうれしいことである。
 福井敬は、今日はあまり咽喉の調子がよくなかったのか、いつものピンと張った美声が聞けず、むしろ力の入りすぎたヘルデン・テノール的なアルフレードに聞こえてしまったのは残念だ。
 黒田博は例のごとく滋味豊かな歌いぶりで、演技でも第3幕で息子アルフレードをじろりと見る目つきなど独特の巧さがあったが、今回の演出は彼の演技巧者ぶりを引き出す類のものではなかったようである。

 神奈川フィルもよく頑張り、綺麗な演奏を聴かせた。
 5時5分終演。

コメント

地味だけど語り直される椿姫

東条様の解説を読みながら23日の公演を鑑賞しました。椿姫という華やかな演目を意識してお洒落をして出かけたら「あれ?」。ビオレッタに浮世離れしたカリスマ性を与えず、1人の人間に見えました。
高級娼婦、華やかな夜会、情熱的な恋愛、引き裂かれる二人、死の床など、劇的でみどころ満載のストーリー。ですが、演出家の方が「人種や職業やセクシュアリティなどで偏見を持たないで欲しい」とインタビューでまとめられていた通り、そのメッセージは可哀想な娼婦の悲恋にとどまらず、現代に通じるものに語り直されてもいたのだなぁ、と感じました。

2日続けてみて今日の方が圧倒的に良かったです。安藤さんのヴィオレッタは国内最高では無いかと。アルフレードのポルターリも声質があって見事。神奈フィルも昨日より精度があがり良くなりました。

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