2020-04

3・15(金)ピエタリ・インキネン指揮日本フィルハーモニー交響楽団のシベリウス

   サントリーホール  7時 (付 東横線渋谷地上駅廃止と46年前の銀座都電)

 フィンランドの俊英指揮者、日本フィルの首席客演指揮者ピエタリ・インキネンのシベリウス交響曲ツィクルスが幕を開けた。待ち望まれていたツィクルスである。第1回は「第1番」と「第5番」の組み合わせになった。

 「第1番」は、作曲者30代半ばの気魄と情熱にあふれた作品であり、多くの指揮者が激烈なエネルギーを噴出させる演奏をつくるものだが、今夜のインキネンも同様。いやむしろ、それ以上、予想以上の壮烈な演奏だった。
 予想以上――といったのは、彼がこれまで日本フィルでの指揮で聴かせたマーラーなどは、どちらかといえば端整で怜悧な、きりりと引き締まった叙情的な色合いの指揮だったからである。それだけに、今夜の「1番」でのような荒々しい表現は、インキネンのこれまで見せなかった面を示して興味深い。日本フィルも例のごとく――2回公演の初日は大体そうだが――猛然と咆哮怒号する。
 ただ、第2楽章のような叙情味豊かな個所での弱音の仕上げは完璧であり、インキネンと日本フィルが決してこの曲で放縦な演奏をしていたわけではなかったことが証明されるだろう。

 結局この「1番」での激しい表現の演奏は、そのあとのシベリウスが50歳代に入ってからの作品になる「第5番」での演奏との対比としてつくられたものであることは、明らかである。
 この「第5番」の演奏は、細部にまで神経を行き届かせたもので、見事だった。所謂「森と湖と霧の中から」響いて来るといったイメージのシベリウスではなく、いっそう明晰な音づくりだが、その中にも充分な陰翳があふれて美しい。

 第1楽章【H】の後、ヴィオラとチェロが、スコアの指定には無い微妙なクレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返しつつざわめき、揺らぎながら進むあたり、インキネンの指揮もなかなか芸が細かいものがある。
 それにこの第1楽章の最後のプレスト――ピウ・プレストの個所を無理に急いだテンポにせず、執拗に反復される弦の4分音符のリズムを明確に際立たせながら、重量感を以って追い込んで行くところなども立派である。
 全曲大詰、全管弦楽が音を長く持続しつつ押して行くクライマックスも好演で、最後の断続する和音群の個所でも「間」の緊張感が保たれていたのも好かった。

 このツィクルス、うまく行くだろう。4月下旬には、あとの5曲が、2回(各2日公演)に分けて演奏される。

 ⇒モーストリークラシック 7月号


 8時45分に演奏会が終ってしまったので、渋谷のタワーレコードへ回って若干の買い物をし、ついでに今夜でその役目を終える東横線の渋谷駅地上ホームをチラリと覗きに行く。目黒に長いこと住んでいた私としては、目蒲線の地上目黒駅が消えた時ほどの感傷はない、というのが正直なところだが、それでもあの東横線渋谷駅は、私にとってもさまざまな思い出のある場所には変わりない。
 夜10時半というまだ早い時間だというのに、駅周辺は物凄い雑踏。歩道橋の上にも人が鈴なりで、カメラを構えている姿も目立つ。終電の頃には大変な騒ぎになっているだろう。といっても東横線自体が消滅するわけではないのだから、悲哀感はそれほど無い。

 私は、1967年(昭和42年)の夜、銀座通りの都電が最後の運転をした時のことを思い出す。あの頃は私にも野次馬精神と体力があったから、最終電車の発車を見に行ったものである。
 深夜の銀座4丁目、デパートなどあらゆる建物の明りはすべて煌々と灯されており、いよいよ品川行きの最後の電車が発車する時になると、スピーカーからは「ほたるの光」が流れはじめ、同時に各ビルの電飾がいっせいに点滅を開始する。と、道路に並んでいた無数のタクシーが、これまたいっせいに「告別のホーン」を断続的に鳴らしはじめた。銀座通りを埋め尽くした何千という群集からも、「さようなら」「ごくろうさん」という歓声が大波のように沸き上がる。花飾りをつけ、乗客を一杯に乗せた「1番」の系統板をつけた電車の運転手は、おそらく泣いていたのであろう、下を向いたまま、顔を上げようとしない。しかし、やがて電車は少しずつ動き出した――。
 当時、クルマ社会の波に押され、ほとんど追われるように姿を消して行った都電の、これがその「黄昏」の最初の夜だったのである。

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