2020-04

3・7(木)ベルナルド・ハイティンク指揮ロンドン交響楽団

   サントリーホール  7時

 ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第2番」が始まった瞬間、何と温かい演奏だろうと思った。
 ハイティンクの指揮を初めてナマで聴いてからもう40年以上になるが、正直なところ昔は綺麗で落ち着いていて、オーケストラを見事にバランスよく鳴らす指揮者だ、くらいにしか感じられない人だった。どんなオーケストラからもその最良のものを引き出すことの出来る指揮者だという印象を受け、しかもその音楽が実にヒューマンな温かさを持っている、と感じられるようになったのは、ずっとのちのことである。

 だが、いまやハイティンクは、本当にオーケストラを精神的に指揮することが出来る境地に達しているのだろう。かつてロンドン響の楽員は「われわれは指揮者の棒を見ながら演奏するのではなく、指揮者のパーソナリティに触発されて演奏するのです」と語っていた。いいオーケストラというものはすべからくそういうものだが、今夜の演奏も、おそらく同様だったはずである。

 ピリスのソロは、やや細身ながらシンの強い表情で開始され、第1楽章のカデンツァにさしかかるあたりから俄然強靭な力を増して行った。第2楽章後半の演奏からも感じられるように、沈潜した厳しさが以前にも増して目立って来た、という印象もある。
 いずれにせよ、これまで聴き慣れて来たピリスとは、更に趣を異にする芸風になって来たようである。中旬にはメネセスとのデュオやソロの演奏会も聴けるはずだから、それも併せて聞き比べてみることにしよう。

 プログラムの後半は、ブルックナーの「第9交響曲」だった(なぜか今年はこの曲が流行るようだ)。私の好きな曲だから、どんな演奏でも聴いてみたい。
 今夜の演奏も、まさに天地が鳴動するといった感のある、壮大な音の坩堝であった。それは、昨年8月末にザルツブルクでハイティンクがウィーン・フィルと演奏した際の、何か物の怪が憑いたような、肌に粟を生じさせる演奏と比較するとやや穏健に感じられたものの、それでも卓越した演奏だったことに変わりはない。

 ただ、今夜聴いた席は2階席LC最前列――位置からいえば1階と2階との中間の高さにあたる場所――で、そこでは弦の唸りが間近に聞こえ、後方上手寄りに配置されたトランペットとトロンボーンはそれにマスクされる傾向がある、というバランスで聞こえた。この位置で他のオケを聴いたことは何度もあるが、今夜のような音に聞こえたのは珍しい。
 この結果、オケ全体が一つの飽和した音響となり、ブルックナーがこの曲で初めて試みた不協和音のぶつかり合い――聴く側の感覚からいえば一種の怪奇で悪魔的な絶唱、とでもいうようなものが薄められるという印象になっていたのである。しかし2階席正面や、その後方あたりで聴けば、また全く異なった響きで聞こえたかもしれない。

 CDが聴く装置により千変万化のイメージになるのと同様、ナマ演奏もホールや聴く席の位置によりそれぞれ異なる受け取り方になる。それにナマ演奏というものは、その日によって異なるものである。このあたりが難しいところだ。

 第3楽章の演奏が終ったあと、静寂は充分に保たれ、それから拍手が巻き起こった。熱狂的なブラヴォーがあふれたというほどの沸き方ではなかったが、温かい拍手がいつまでも続き、ハイティンクへのソロ・カーテンコールも2回繰り返された。

コメント

ハイティンクを聴くのは5回目、2009年のCSOを率いての来日公演以来となりますが、本日は最後のソロカーテンコールでも今ひとつ顔色に生気なく、ひょっとして体調が良くなかったのではとも思われて大変心配です。ブル9はこの人らしい遅めの悠然としたとしたテンポで(70分近くかかったのではないでしょうか)したが、音楽は全く弛緩せず、丁寧に細部を積み重ねてゆく理想的なブルックナーであったように思います。このテンポについてゆくLSOも見事。特に金管(ホルン、ワーグナーチューバ)は素晴らしく、3楽章最後のロングトーンも全く危なげなく、この辺に在京オケとの差を感じてしまいます。ハイティンクさん、また数年後に来日して元気な姿を見せてください。

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