2017-10

2・2(土)水野修孝:オペラ「天守物語」

   新国立劇場中劇場  5時

 日本オペラ振興会制作、日本オペラ協会公演。
 山下一史の指揮、岩田達宗の演出、増田寿子の舞台美術、平田悦子の衣装。
 今日はAキャストで、主演富姫を腰越満美、亀姫を佐藤美枝子、姫川図書之助を中鉢聡、近江之丞桃六を大賀寛、といった主演陣。

 1979年に舞台初演されたこの「天守物語」、それ以降数度の上演を重ねている人気作だが、私はそのうち99年に新国立劇場で上演された栗山昌良演出の舞台しか観ていない。あの時の演出は、泉鏡花の怪奇で耽美的な世界を巧く舞台に創り上げたものとして印象に残っているが、今回の岩田達宗演出は、それに比べるとややポップな、寛いだ雰囲気を感じさせる。女の怨念を呑み込んだ獅子頭にしても、栗山版では何か不気味さを醸し出していたのに対し、こちら岩田版では、少し愛嬌があって可愛らしさを感じさせるのは、照明(大島祐夫)の使い方のためもあるだろうか? 

 それぞれの良さがあるのはもちろんだが、今回の演出について若干の物足りなさがあるとすれば、このドラマの特徴たる論理的な飛躍を、もう少し解りやすく説明できる方法を講じて欲しかったこと、城の5層(天守)がそもそも魔界であることを示す不気味さがもっと欲しかったこと、などだろうか。
 姫路城主と富姫の関係や、富姫の言う「虫が来た」の意味など、もともと解説を読まなければ解りにくいところだが、そのあたりを巧く演出して欲しかったな、ということなのである。

 山下一史の指揮するフィルハーモニア東京というオーケストラは、なかなかしっかりした演奏をしていた。もっともこのオペラは、歌手が無伴奏で歌うところがおそろしく多いから、オケが雄弁にドラマを語る場面はあまり多くない。
 その歌手たち、みんな実にいい歌唱を聴かせてくれた。歌唱パートでは日本語の抑揚やテンポが適切に構築されているので、聴きやすいということもあるだろう(字幕付。これもありがたい)。大賀寛のナレーションも、相変わらずの貫禄である。

 歌手の演技も衣装も、さすが日本人が日本人を演じる強みで、どれを取ってもサマになる。特に富姫役の腰越満美の存在感はずば抜けて圧倒的であり、和服姿の美しさ、気品の高さ、立居振舞の見事さなど、まさに日本女性の鑑(?)ともいうべきものだろう。昨年の「白虎」での西郷頼母夫人役も完璧だったし、こうなると新国立劇場6月公演の「夜叉ヶ池」(これも泉鏡花原作、岩田達宗演出だ)の白雪役も楽しみになる。

コメント

天守物語(2月3日)

ファーストキャストの腰越満美が聴きたかったが、他公演と重なりセカンドキャストを鑑賞。比較出来ないのでその優劣は分からないが、川越塔子も魅力的な天守夫人・富姫であった。富姫に憧れる猪苗代亀の城、亀姫役の佐藤恵利もかわいらしい。

前半は、血みどろの生首のおどろおどろしさを除くと、美しい衣装を身に着けた女性歌手2人の歌と佇まいが「若い2人の姫の戯れ」という原作通りの雰囲気を示しており、夢の中に入り込むような感覚を覚える。二人の独特の関係、心の通い合いも良く表現されていた。

今回の演出(岩田達宗)では後半も含めて、「絵」になるような場面が意識的に設定されており、それが観る人を「夢見心地」に誘う。

道化役と言える朱の盤坊役の清水良一、舌長姥薬の二渡加津子も好演。

後半は一転して富姫と姫川図書之助(柴山昌宜)の男女の心の機微を表現しているが、前半の2人の姫の関係と比べると後半の2人の間には距離があり「心が通う…」というとろまでは至らずもどかしい演出であった。
天界の富姫と地上の人間である図書之助の距離を示すためかどうか、2人が離れた形で語る(歌う)部分では富姫の声にはエコーがかけてある。演出としては理解するが、歌を聴く意味ではこのエコーがなぜ必要なのか…という疑問があった。

繰り返し上演されている作品とのことなのでまた違う演出で観たいと思った。

音楽的には美しく聴きやすい。台詞が多く、何度も「これはオペラのジャンルなのか…」「しかし、やはりオペラなのだろう」との思いが浮かんだ。

オペラ歌手は台詞もうまくなくてはならない…と感じる作品であった。字幕があるが、歌も台詞もクリアで分かりやすく字幕に頼ることはほとんどなかった。

山下一史の指揮は久しぶりに聴いた。また、山下一史がオペラを振るのは初めて聴いた。最前列で聴くと、指揮に込めた山下のエネルギーが一部、声となって発露されるのが聴こえた。とても良い演奏だった。

泉鏡花原作のオペラとして、昨年は「高野聖」を聴き、この度は「天守物語」、そして、6月にはまた「夜叉が池」を聴くことが出来る。
今年はワーグナー/ヴェルディの記念年で多くのワーグナー、ヴェルディを集中的に聴くことが出来るのも良いが、既にそれらはもともとよく馴染んだものであまり目新しい感じはしない。このように聴く機会の少ないオール日本の作品(原作・作曲・演出・出演)をまとまって聴くことが出来る方がむしろより贅沢なことである。
泉鏡花はオペラの「高野聖」のための予習として初めて原作を読んだが、文体を含めその独特の世界にはまり込むと、しばらく抜けられなくなるという困った魅力のある作家である。

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