2024-03

2013・1・8(火)大野和士指揮読売日本交響楽団の「アルプス交響曲」他

   東京芸術劇場  7時

 小山実稚恵も協演して、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」を弾く。人気のコンビの出演とあって、客席はほぼ満杯だ(明日のサントリーホールも完売とか)。

 大野和士は、R・シュトラウスの「アルプス交響曲」では金管セクション――特にトランペットを全力で吹かせたのをはじめ、オーケストラ全体に筋肉質の力感と輝かしさをあふれさせ、ワイルドな(?)豪演に仕上げた。「頂上」の場面など、まさに耳を劈くばかりの金管の強奏である。
 だがこれは、もともとスペクタクルな要素の強い作品だ。このくらいダイナミックな演奏をしてくれた方が痛快で面白い。それに、欧米のオケなら、これくらいの音量は珍しくはないはずだし・・・・。

 森にこだまする狩人の角笛を表すバンダ・セクションは、正面オルガンの下にずらりと並んでいっせいに咆哮した。これもふだん聴き慣れている「遠方からのエコーのように」響く効果とは正反対のものだったが、終演後にマエストロ大野は「このホールの構造を生かして、狩の角笛がアルプスの巨大な岩壁にこだまするようなイメージを狙ってみた」と語っていた。なるほど、たまにはそういう手もありかな、と思う。
 「嵐、下山」の場面も、パンチの効いた打楽器群の活躍もあって、これまた大スペクタクルの演奏であった。

 今回は聴いた席が2階正面上手側の前方に突き出したブロックの前列だったせいか、各パートの音がかなり生々しく、そのくせ妙にはね返りの多い、まとまりを欠く音響に聞こえるのには些か戸惑った――改修後のこのホールの音響には未だ一つ掴みにくいところがある。だが、前半での少し粗いアンサンブル、後半で取り戻した合奏の均衡、といった印象は、そう食い違っていないのではないかと思う。

 冒頭の「夜、日の出」の場面でのファゴットの動きが極度に生々しくはっきり聞こえ過ぎ、しかもアンサンブルがガサガサしているように感じられたのは、夜明けの神秘的な情景を想像させるには少々苦しい。
 「森に入る」くだりの弦の響きもそうだったが、大野は概して明確な音響づくりを志向し、リズムとフレーズをはっきりと際立たせる指揮を行なっている。それがロマン的な描写音楽の性格とどのように均衡を保つかは、考え方次第だ。
 ただ、いずれにせよ、今日の演奏は、総じて読響としては常になく粗っぽいアンサンブルだな、という印象を受けたのも、正直なところであった。だがこういった点は、2日目にはたいてい改善される類のものだろう。

 1曲目のラフマニノフは、小山実稚恵の独壇場ともいうべき演奏である。冒頭を最弱音で開始し、全曲最後の頂点では豪壮そのものの世界に盛り上げる。
 あんな華奢なお姿の、しかもフニャリフニャリとした感じでお喋りになる女性のどこからあのような豪快な演奏が生れるのか、全く不思議だ。だが、どんなに熱狂しても決して音楽の形を崩すことがないのも、彼女の演奏の美点でもあろう。
 大野と読響も、彼女の力強いソロに呼応して、全曲最後のカッコいいリズムを、鮮やかに決めた。
   音楽の友3月号 演奏会評

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