2017-10

12・23(日)ベルリン滞在記(終) ラトル指揮のR・シュトラウス:「ばらの騎士」

   ベルリン州立歌劇場/シラー劇場  6時

 ウンター・デン・リンデンのベルリン州立歌劇場の建物は未だ修復工事中。代替としてシラー劇場が使用されている。
 このシラー劇場は、U2地下鉄の「ドイチュ・オーパー・ベルリン」の隣の駅「エルンスト・ロイター・プラッツ」で降り、ビスマルク通りに沿って警察の前を過ぎれば目の前に在る。駅から歩いて5分とかからぬ距離だが、歩道の雪が凍結しているため、歩くには多少の注意を要する。

 本来はオペラ用の劇場ではないから、音響の点では最良とはいえないが、それでもちゃんとした大きな深いオーケストラ・ピットがあり、後期ロマン派オペラの音響を充たす編成も可能のようだ。
 この日の「ばらの騎士」でも、ベルリン州立歌劇場管弦楽団は、かなりの音量を以って鳴り響いており、ドライな音質ではあったが、さほど違和感なく楽しめた。

 この「ばらの騎士」は、今シーズンは12月のみの5回上演で、今夜が最終公演。
 演出はニコラス・ブリーガー。1995年プレミエという古いプロダクションだから、今回の上演はサイモン・ラトルが指揮するという点が最大の関心事。

 そのラトルの指揮は、切れのいいリズム感、鋭角的なダイナミズムの対比、畳み掛けるテンポなど、驚くほどシャープな音楽づくり。おそろしくテンションの高い演奏の「ばらの騎士」であった。演奏時間は他の指揮者とそれほど変わらなかったのに、著しくテンポの速い演奏に感じられたのは、それだけ音楽の表情が激しく、緩みのない演奏だったからではないかと思う。

 第1幕も随分「テンポよく」進み、すこぶる慌しい音楽の流れの裡に人物の交錯が描かれる――これは別に悪い意味で言っているのではない。
 しかし、面白かったのはやはり第2幕での演奏だ。「ばらの騎士」が登場する個所など、壮麗な盛り上がりというよりは、何かオクタヴィアンが強引に押し入り、この邸を制圧したかのような、物凄い音の爆発。
 更に後半の騒動の場面になると、音楽のドラマティックでスペクタクルな要素がいっそう強調される。この「ばらの騎士」といえど、やはりあの「エレクトラ」の直後に書かれた作品にほかならない、とまで再認識させるようなラトルの解釈である。

 といって、彼の指揮は決して力一辺倒ではなく、なかなか細かいニュアンスを備えたものだ。
 例えば第2幕で、抱擁するオクタヴィアンとゾフィーの姿をオックス男爵が発見した時、音楽が短い間表情を曇らせるが、その個所をあんなに暗鬱に不気味に、あたかも悲劇の如く表現した指揮は、私はこれまで聴いたことがなかった。この演出ではオックス男爵(ユルゲン・リンが巧い)が単なるコミカルな人物でなく、「本気で怒り出すと実に怖い男」として描かれているだけに、そのラトルの指揮の表情が極めて適切に生きて来る。

 そしてその直後、音楽がぱっともとの洒脱な表情を取り戻す時の、ラトルの指揮の変化のニュアンスの鮮やかなこと! 挙げればキリがないが、すこぶるスリリングなラトルの指揮であった。そしてまた、この「ばらの騎士」の音楽が単にウィーン風の典雅優麗な世界の範囲に留まるとは限らない、ということを証明するような指揮でもあった。

 他の主役歌手たちは、マルシャリン(元帥夫人)をドロテア・レッシュマン、オクタヴィアンをマグダレーナ・コジェナー、ゾフィーをアンナ・プロハスカ、ファーニナルをミヒャエル・クラウスなど。
 コジェナーのあの独特の細かいヴィブラートがついた声は、私はどうも苦手なのだが、演技は巧い――最終場面で、沈黙のまま振り返りもせず去って行く元帥夫人のあとを一度は追ったものの、「もう終ったことなんだ」と自ら得心したように戻って来るあたりの演技の巧さには、舌を巻いた。レッシュマンにしてもそうだが、超一流はダテではない。こうした歌手たちが檜舞台で見せる歌唱と演技の凄さは、並みのものではない、とつくづく感心する。
 こういう手応えのある上演を聴いて、観たあとでは、わざわざ遠くまで来た甲斐もあったな、と思う。

 30分の休憩2回を挟み、終演は10時15分。
 このシラー劇場、オペラ用としてもそれほど危惧したほどではない。次に来るのは3月の「神々の黄昏」だが、プロダクションの質さえ良ければ、何とかなるかもしれない。

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