2020-04

12・22(土)ベルリン滞在記4  ハルムス演出の「タンホイザー」

     ベルリン・ドイツオペラ  6時30分

 事前のインフォでは指揮がウルフ・シルマーとなっていたが、行ってみたらコンスタンティン・トリンクスが指揮することになっていた。シメシメという感じ。
 来月の新国立劇場公演のこのオペラへの客演指揮の肩慣らし?でもなかろうが、この若手は何度か来日もしている注目株の1人だ。

 トリンクスは予想通り、実に綺麗な音の「タンホイザー」の音楽を創る。透明で、すっきりした音のワーグナーである。熱狂とか魔性などの要素は皆無で、むしろ知的冷静(?)といった感の演奏だが、この作品の場合には、そういう指揮も生きるだろう。
 オーケストラがしっかりしていて、それ自体の響きに重量感もあるので、最強奏の際には音楽に風格を失わぬ。ただし、最弱音が続く個所になると音楽にふくらみと緊張感が希薄になり、何となく生気を欠くような印象になる――この点は、以前の彼とあまり変わっていないようだ。

 今回の配役は、タンホイザーにペーター・ザイフェルト、エリーザベトとヴェーヌスの2役にペトラ・マリア・シュニッツァー、ヴォルフラムにクリスティアン・ゲアハーアー(ゲルハーヘル)、領主へルマンにアイン・アンガー、ワルターにクレメンス・ビーバー・・・・と、見事に役者揃い。

 シュニッツァーは残念ながら本調子とは言えなかったが、ザイフェルトは健在で、相変わらず綺麗なよく通る声を響かせていた。ゲアハーアーは、以前ウィーン国立歌劇場でこの役を歌った時より少し抑制した表現になったような感もあるが、その代わり落ち着きが出たと言えるかもしれぬ。

 演出はキルステン・ハルムス。2008年9月にプレミエされたプロダクション。つまり彼女のインテンダント時代の作、ということになる。私も、これは2010年2月に一度観たことがある。
 あの時は、あまりに大幅な音楽のカットがあったのに激怒したが――新国立劇場やウィーン国立歌劇場よりも更に横柄なカットだ――今回も同様の個所がカットされている。詳しくは繰り返さない。
 使用楽譜はドレスデン版基本で、第3幕最後の合唱の個所のみパリ版(絶対ここはこの方が好い)が使用されていた。あまり理屈に合わないかもしれないが、この方法だけは、私は大賛成。

 舞台の造りは、以前とさして変わりなかろう。セリと吊りがふんだんに活用され、ヴェヌスベルクのダンサーたちはもちろん、巡礼の合唱団も多くはセリで上下する。これはすこぶる壮観である。ヴァルトブルクの騎士団は、すべて銀色の甲冑姿。

 前回と同様、この演出で気に入った点を一つ。
 ここでは、清純なエリーザベトと官能の女神ヴェーヌスとを、女性の2面性を表わすという視点から、1人のソプラノが演じる手法が採られており――その方法自体は珍しくはないが――、第3幕でエリーザベトとして息を引き取り、横たわっていたその同じ女性が、タンホイザーの前でヴェーヌスとして生き返る、という設定になっているのが面白い。
 死んで白布で覆われ、長々と横たわっていたはずの女性が再びムクムクと白布の中で動き出す、なんてのは少しオカルト的な光景だが・・・・。

 それはともかく、この女性がエリーザベトであると同時にヴェーヌスであるという一体性をタンホイザーが認識し、あるいはその両者を混同したまま、その幻想の中で死んで行く、という設定は、秀逸ではなかろうか?
 なにしろタンホイザーは、「エリーザベトよ、わがために祈りを」などとつぶやきながらヴェーヌスにすがり、その膝に頭を乗せたまま息を引き取るのである。実に身勝手な男だが、彼がこのような混乱した意識の中にあるということで、それも許されるかもしれぬ。
 観客もまた、タンホイザーと同様の、混同した幻想に引き込まれる、というわけ。

 そして、巡礼たちや騎士団は、あの壮大な合唱のうちに、セリで沈んで行く。舞台には、ただタンホイザーと、エリーザベトでありヴェーヌスでもある女性だけが残る・・・・。
 ここでのワーグナーの音楽の持って行き方は実に見事だが、トリンクスもこういう個所での盛り上げは格段に巧くなった。ベルリン・ドイツオペラ管弦楽団の厚みのある響きが呼応して、短い後奏でのオーケストラの壮大で強靭な力感は、これまでちょっと聴いたことのないほどの立派なものだった。トリンクス、日本のオケからこれだけの音を引き出せるか?

 30分の休憩2回を含み、終演は10時45分。満杯の客席の熱気と、重量感のある舞台と演奏に、やっとヨーロッパのオペラを観に来たという実感が湧く。
 騒々しいフライング・ブラヴォーはこちらでも多い。といっても、それより遥かに多い煩い口笛や奇声の類よりは、まだブラヴォーの声の方がマシかも。

 昼間、積もるほど降った雪も既にあがっていた。冷えは相変わらず強い。この劇場のありがたいところは、地下鉄(U2)の駅が目の前にあることだ。

コメント

ベルリン在住の者です。この日、私も同じ舞台を観ていましたが、演奏も舞台もとても楽しめた一夜でした。エリーザベトが死んで白布がかけられ、(一人二役なので)ヴェーヌスはどうなるんだ?とそわそわして観ておりましたが、そういうことだったんですね。ご解説により改めて演出意図が理解できました。
席は1.Rang(2階)だったのですが、3幕ではどこからかかすかな高周波音が聞こえてきてとても気になりました。きっと設備かなにかの不具合だったのでしょう。

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