2020-07

12・21(金)ベルリン滞在記3  ビエイト演出のウェーバー「魔弾の射手」

     ベルリン・コーミッシェ・オーパー  7時30分

 昨夜より更に客の入りが悪いのには驚いた。ざっと見渡したところ3分の1程度か? 
 休憩時間(第2幕のあとに1回、30分)に幕が半開きになっていて、大勢のスタッフが一所懸命、舞台装置のセッティングをしているのが見えたけれども、そういう人たちの生活を含めてこれでやって行けるのか、と他人事ながら心配になってしまう。

 カリスト・ビエイトの演出する「魔弾の射手」にはちょっと興味を持っていたが、何とも趣味の悪い舞台で、辟易させられた。設定も服装も「狩人の世界」だし、第1・2幕は森の中、第3幕は森の中の空き地――という、ほぼオリジナル通りの場面設定なのだが・・・・。

 今回の上演版では、音楽はそのままだが、セリフ部分が大幅にカットされている。第1幕では「射撃試合」の所以について説明される個所は無く、悪狩人カスパルが同僚のマックスに「魔弾」の威力を見せる部分も無い。「狼谷の場」では悪魔ザミエルは登場せず、そのセリフも一部はカスパルによって語られる。セリフは最小限の量だ。
 従ってドラマの進行もスピーディで、第2幕の終りまで75分を要したのみである。

 この演出は、ロマン派オペラの超自然的な世界の御伽噺でなく、生々しい殺伐な人間どもの村での事件という設定だ。それ自体は結構だろう。
 序曲の最中に、森の中を巨大なイノシシが歩き回って餌をつついていたり(どうも本物らしいが、よく馴らしてあるのか?)、狼谷の場で魔弾が鋳られるに従い、森の大木が次々に倒れて行く光景があったりするのも、まず妥当な趣向であろう。

 そこまではいいのだが、全篇いたるところに、今の演出家がよくやるタイプの、殴る蹴るの荒っぽい行動や暴力、殺人、血のゲームといった要素が持ち込まれているのが不快極まる。
 第1幕冒頭で射撃の不調なマックスと、それをからかうキリアンとの間に起こる諍いなど、ナイフを手にしての大乱闘にまで仕立てる必要がどこにあろうか? 
 もっと気持が悪いのは、男たちが射殺した獲物の獣が人間の女の姿をしており、これを裸体にして切り刻み(という暗示)、その血を自らの顔や身体に塗りたくって大騒ぎをした挙句、その血塗れの裸女を肩に担いで引き上げて行くという光景だ。このあたりでもう、いやな演出だな、という気がしてしまう。

 加えて「狼谷の場」では、カスパルが若い新婚のカップルを縛り上げて誘拐して来て、悲鳴を上げるその女を刺し殺して下半身から「魔弾」を7つ取り出す。一方では、狂気に陥ったマックスまでが、男の方を刺殺するという具合。本当に胸の悪くなるような場面である。
 こんなマックスでは第3幕の「大団円の場」で許されるはずはなかろう、と思ったが、果たせるかなマックスの撃った魔弾が恋人アガーテに「本当に」命中し、彼女は死に、マックスも狩人の誰かに撃たれて死ぬ、というめちゃくちゃな結末を迎えることになる。

 またこの大詰では、マックスを取り成しに現われる「森の隠者」はあまり「尊敬され」ておらず、彼が「射撃大会など今後は止めなさい」と諄々と説いても村人たちは冷笑し、彼が去った直後にはまたも銃の大乱射を始める、という設定となっていた。
 このあたりは、依然として戦争の絶えない現代の世界を、あるいはどこやらの銃社会の国を皮肉って描いているという解釈もできるだろう。

 それにしてもまあ、このオペラをよくもここまで殺伐惨酷な舞台に仕立てたものだ。何かといえば殺す、自殺する、暴力を振るうという行動を舞台に取り入れたがる今日の欧州の演出の傾向を如実に反映しているだろう。
 このプロダクションは、今年1月にプレミエされたもので、今シーズンは6回の上演があり、今夜は5回目に当たる。最終回は1月3日だというが、正月早々こんなものを観るか? 

 入りの悪い(そりゃそうだろ)今夜も、しかしブーイングも飛ばず、客は歓声を挙げながら嬉々として拍手していた。ドイツの客はこんな好みなのだ、などと短絡的なことは決して言いませんが、それでも、ちょっとどうかしてるんじゃない?

 ビエイトは、次の6月にベルリン州立歌劇場で、細川俊夫の「班女」を新演出することになっているが、大丈夫なのかしらん? 変なことをやられたら台無しだ。同歌劇場のシーズンブックには、おそろしく品のないイメージ写真が載っていたし。

 話を「魔弾の射手」に戻すと、指揮はMihkel Kutson という人。この人もリズムのはっきりした、メリハリのある指揮をするが、ちょっと急ぎすぎるところがある。しかし、「狩人の合唱」になると、コーラスがそれ以上に走り気味になるので、オケと合わせるのにだいぶ苦労していたようだ。ただこの劇場のオケは、少しルーティンっぽい演奏だが、基本的にはそれなりに纏まっているだろう。

 歌手陣では、隠者役のアレクセイ・アントノフが堂々としていた他は、カスパル役のイェンス・ラルセンは馬力はあるもののおそろしく勝手な歌いぶりだし、マックス役のドミトリー・ゴロフニン、アガーテ役のベッティーナ・イェンセンも・・・・言っては何だがローカル級。エンヒェン役のアリアーナ・シュトラールは、研修生らしい。

 10時10分終演。エライオペラに来てしまったぜ、という感だが、出口で愛想よく配られているチョコレートにやや心和むことも。外は意外に寒くない。フリードリヒ街のクリスマス装飾も、昔よりは随分綺麗になった。

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