2020-07

11・25(日)飯森範親指揮山形交響楽団「ある幽霊船の物語」

    山形テルサホール  4時

 朝の浜松は快晴。ここは30年近く前に、FM静岡(現K-MIX)の開局に際し番組編成責任者として4年間赴任、浜松交響楽団ほか多くの地元の方々と愉しい交流をしたことがあるだけに、今でも懐かしく、第2の故郷のように思える街だ。当時の駅北口は未だ工事の真最中、今のアクトシティの辺りなどは強風吹き荒ぶ原っぱだった。駅周辺の変わりようには、ただもう呆然とするばかりである。ただ、あまりに大きなビルがたくさん建ちすぎて、昔のような人間味が薄くなってしまったな、という感じがしないでもない。

 その浜松を、9時11分の「ひかり」で発ち、10時40分東京駅着、11時08分の「つばさ」に乗り継いで午後1時54分山形駅着。こちらも美しい快晴だ。冷気が爽やかで快い。意外に寒くないので有難い。

 山形へ聴きに来た公演は、山形交響楽団創立40周年記念の一環、音楽監督の飯森範親が指揮する第224回定期演奏会。
 「ある幽霊船の物語」とは今回の公演用の客寄せ用(?)のタイトルで、種を明かせば、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」である。
 今回は字幕付演奏会形式上演で、第1幕のあとに休憩を入れ、第2幕と第3幕は続けて演奏するヴァージョンを使用。第2幕の最後と第3幕の3重唱では、慣例的な一部カットが施されていた。

 結論から先に言うと、今回のこれは、特筆すべき快演であった。
 まず、飯森範親のテンポが実にいい。直截明快、速めのテンポで歯切れよく、ぐいぐいと押す。第3幕のノルウェー船とオランダ船の水夫の合唱部分あたりはブッ飛ばし過ぎの感があったが、どの幕においてもクライマックスに向けて息もつかせず追い込んで行くテンポ感覚はすこぶる気持のいいものだった。見通しのいい構築の指揮ゆえに、長さを全く感じさせなかったのも美点である。

 山形響の充実ぶりも目覚しい。演奏は引き締まって、張りと活気がある。濃密かつ分厚い重量感に富んだ響きも、昔のこのオケからは想像もできなかったものだ。それもやはり、飯森の指導よろしきを得ての結果であろう。

 重要な合唱も、山響アマデウスコアが健闘した。特に男声合唱は、少人数にもかかわらず、煽り立てるオーケストラに拮抗して力強く響いていた。幽霊船水夫たちの合唱も今回は舞台上で歌われたが、そのパート(グループ)のみ、前に立てたマイクを通し、PAで音質を若干加工するという面白いテクニックが使用されていた。

 快演の要因は、声楽ソリスト6人の充実にもある。
 オランダ人を歌った小森輝彦は、悲劇的な運命に苦悩する真摯な船長としての性格を巧みに打ち出していた。4年前の二期会公演のヴォータン役では、少し声の質が合わないかなという感もあったが、こちら「オランダ人」は、まさに当たり役であろう。

 更なる素晴しい出来を示したのは、ゼンタを歌った橋爪ゆか。
 先日のクンドリー(パルジファル)でもその新境地に驚かされたが、今回のゼンタは彼女のキャラクターにいっそう合っているのだろう。バラードでの夢見るような歌い出しから、オランダ人との二重唱を通じて次第に情熱的な女性に変わり、大詰めに向けていよいよ憑かれたような熱狂に変貌して行く体当たり的な歌唱には、舌を巻いた。声も終始安定して、ステージの空気を独占するほどの充分なパワーもある。素晴しいゼンタが登場したものである。

 更に、ダーラント船長役の小鉄和弘、猟師エリック役の経種廉彦、そして脇役の乳母マリーの柿崎泉、舵手の鏡貴之まで粒の揃った歌手陣。
 柿崎泉の歌唱は今回初めて聴かせてもらったのだが、シンの強いアルトの声が印象的だった。これほど存在感の強い乳母を歌える人は、決して多くないだろう。

 休憩1回を入れ、6時35分頃全曲が終了。2回公演の、今日が2日目だった。
    
     ⇒モーストリークラシック2月号「オーケストラ新聞」

コメント

本当に山形まで行って聴いた価値がありました。テンポもてきぱきとだれがなく、よく音量的に不満の残る曲ですが、それもなく、また音色も圧倒的にワーグナーだったと思います。歌手の方たちも皆様とてもすばらしく、正に息もつかせないとはこのことだったと思います。長い間記憶に残ると思います。

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