2019-05

2・23(土)新国立劇場制作 山田耕筰:「黒船」

  新国立劇場オペラ劇場

 これもまた、滅多に観られないオペラ。とはいえ、これまで上演されたことは何度かあるようで、私が観ていなかっただけのことだろう。
 いずれにせよ、われわれ日本のオペラ・ファンにとっては、大先達の名作(1940年初演)として、一度は観ておくべき作品だ。昔レコードで聴いた時には何か貧弱なイメージを感じたものだったが、今回、若杉弘指揮、栗山昌良演出による念入りなプロダクションに接し、これはやはり日本のオペラとしては大変な力作であったという感慨を抱かずにはいられなかった。

 3つの幕に先立つ「序景」は、過去の舞台上演ではカットされていたそうで、したがってこの部分は実に68年ぶりに舞台初演されたことになる。
 盆踊りの光景に始まる、たいした事件も起こらないわりには長い場面だ。たしかにこれまでカットされていた理由も解らなくはない。が、山田耕筰がこれを書いたからにはそれなりの狙いがあったはずなのであり、その意味でも復活演奏は作曲者に対する敬意として意義あることであろう。その他にも何ヶ所か復活蘇演の個所があると聞く。

 音楽は、どちらかといえば叙情的な部分が多く、オーケストレーションも歌詞がよく聞き取れるように作られている。
 このあたり、山田耕筰が、当時の日本人作曲家としては、オペラというものを驚異的なほど把握していたことを証明するものだろう。声量に不足する日本人歌手の問題を、きわめて巧く解決しているのである。
 もちろん今回は、オペラの指揮に熟達した若杉弘がオーケストラ(東京響)を巧みにドライブしていたことも忘れてはならない。また、譜面上では違和感もあった日本語の音程の跳躍が、実際に聴いてみるとさほど不自然に感じられなかったのも、オーケストラの表情が適切だったためであろう。
 とにかく、随所に現れる「耕筰節」はわれわれを愉しませる。「姐さん教えて下さいな」で始まるお吉の歌の旋律と管弦楽との和音構成など、こちらが照れてしまうくらいに歌謡調が繰り広げられる。これも、オペラにおけるシリアスな面と、親しみやすい娯楽面とを組み合わせるコツを、山田が会得していたからではなかろうか。
 なお上演には字幕が使われていたが、これは歌詞が聞き取れないからということではなく、旧い文語体が多く使用されていたため、言葉の理解を助けることが目的だと思われる。

 演出の栗山昌良は、このような日本ものを手がけると、実に味がある。新国立劇場での「天守物語」なども一種の耽美的な雰囲気があふれて印象的だったが、今回の舞台も日本の様式美を折り込んだ所作と構築が安定感を生んでいた。
 松井るみの舞台美術、緒方規矩子の衣装も美しい。第3幕でのイチョウと紅葉の色づきは華やかであり、観客の目を楽しませた。特に浪人・吉田の切腹場面でイチョウの葉がハラハラと散っていくあたり、いかにも「日本的」な雰囲気だ(ほんとは、もっと盛んに散ってもらいたかったのだけれど)。

 歌手では、腰越満美(お吉)と黒田博(浪人・吉田)が容姿・演技も含めて素晴らしい。いや、その他の歌手たちも、さすがに日本の武士、浪人、芸者、漁師などをやると、これ以上は無いくらいにサマになる。日本のオペラにもっと名作がたくさんあったなら、もっと世界に存在を主張できるのだが。
 ただし、その中でやはり領事や書記官のような外国人の役が出てくると、途端に無理が目立ってくるのが残念である。たとえば今回のようなアメリカ人役を、外国人歌手に日本語を勉強してもらって演じてもらう、というのは不可能なことなのだろうか? もしくは、彼らの歌詞の中には英語の個所も出てくるのだし、もともとの台本はパーシー・ノーエルによる英語版なのだし、「序景」は当初英語テキストに作曲されたくらいなのだから、米人役の部分だけ英語に戻して歌ってみても面白いのではなかろうか。
 

コメント

なぜ今”黒船”なのか

本日「黒船」を観ました。先生が御覧になった昨日とは配役は違いますが、日本情緒たっぷりの、しっとりした良い演奏でした。1986年に森正指揮で行われたこのオペラのビデオを未だにもっており、改めて出かける前に見ましたが、あまりピンと来ない演奏でした。比べて今回の公演のすばらしかったこと。うっとりとして聞いている間、実はオペラと少し離れたことを考えておりました。題して「なぜ今”黒船”なのか」。今世界中を苦しめている環境汚染の日本への最初の登場は、この黒船来航ではなかったのか。まさか黒船を見て驚いた当時の日本人が、現代の環境まで見越していたとは思わぬが、黒船を見て異質なものを感じ、本能的な恐怖感を感じていたのではあるまいか。それが現代の環境汚染に対する恐怖と一脈通ずるような気がする。また日本は環境対策でも世界のレベルから遅れているという。もっと政府が本腰を入れて対策を講ずるべきである。洞爺湖サミットで如何に言葉で約則をしたところで実績がなければ世界から侮られよう。それにしても昔も今も役人の体質は変わっていない。そういうことも含めて今このオペラを上演することは大変意義のあることであると思いました。

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