2020-04

7・21(土)ユベール・スダーン指揮東京交響楽団

  サントリーホール  6時

 前半にマーラーの「さすらう若人の歌」、後半にリストの「ファウスト交響曲」。
 聴感上でも極めて良いバランスのプログラムだ。また前者の謎めいた終結と、後者における調性の不安定な第1楽章とが、精神的にさすらう人間を描く作品としての関連性を暗示するような選曲でもある。

 ただ、「さすらう若人の歌」を歌ったヴォルフガング・ホルツマイアー(Br)の、いまどき珍しいほど極度に粘った歌い方には、どうにも共感しかねる。そういう個人的な好みを別にしても、声が非常に不安定で、音程がしばしばずり落ち気味になるのは困る。これではまるで、失恋した心の痛みを酔っ払って紛らせながらふらふら歩く男――といった感じの歌唱ではなかろうか。「純な若者の愛の苦悩」ともいうべきこの作品の性格が、根底から崩れてしまう。
 一方、スダーン指揮の東響の演奏は、室内楽的な精緻さも湛え、端整な美しさを聴かせていた。

 「ファウスト交響曲」は、スダーンと東響の、現在の最良の水準を披露した演奏というべく、すばらしく聴き応えのあるものとなった。この厳しく鋭い求心性を備えた表現は、以前のブルックナーの「第8交響曲」や、シェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」などと並ぶだろう。

 明快そのものの組み立て、引き締まったアンサンブル、歯切れのいいリズム、内声部まで明晰な音色――このようなアプローチで演奏された「ファウスト交響曲」は、とかくこの作品につきまとう鬱陶しく晦渋なイメージが一掃され、極めて見通しのいい構築の曲に一変する。
 ファウスト、グレートヒェン、メフィストフェレスの3人のキャラクターをそれぞれ第1楽章から第3楽章に当てはめたこの交響曲が、アレグロ――アンダンテ――アレグロ(スケルツォ)という急―緩―急の形式を明確に備えているものであることを、これほどはっきりと印象づけてくれた演奏は、決して多くないだろう。

 こういうアプローチの演奏だと、第1楽章でのファウスト像も、しんねりむっつり思索する学者ではなく、決然として人生を探求しつづける人間、という印象になるだろう。第2楽章でのグレートヒェンは端正で、何か生真面目すぎる女性というイメージになっていたが、メフィストフェレスを描く第3楽章では、整然たるアンサンブルの裡に荒々しいアイロニーを湛え、小気味よいスケルツォとしての性格を鮮やかに打ち出し、いかにも頭脳的な皮肉家のメフィスト――という解釈を感じさせた。

 第3楽章、ファウストの主題がメフィストフェレスにより歪められる中で、突如として再現するグレートヒェンの主題だけが清純さを保っているというあの個所――そこで曲想がぱっと変わる個所でのスダーンの呼吸も、すこぶる見事なもの。
 そして最終部分にはテナー・ソロと男声合唱が参加する版が使われ、救済を感じさせる盛り上がりとなった。チャールズ・キムの強靭なソロが輝かしい賛歌を作り出し、東響コーラス(合唱指揮・安藤常光)も手堅く安定した力を出した。

 今日の東響コーラスは「創立25周年記念」シリーズの演奏の第1回という立場の由。この合唱団の優秀さは、これまでの演奏で夙に知られるところである。
 今夜は、歌い始めるぎりぎり直前でのステージ入場という方法が採られ、これがまたピタリとタイミングが合って、並び終わるや歌が開始されるという見事な演出効果になっていた。あとで事務局から聞いた話によると、出始めから並び終わりまでジャスト40秒間で――という、その練習を2回やったそうである。

 それにしても、スダーンと東響の好調さが引続き保たれているというのは、うれしいことだ。大震災以来使えなかった本拠地ミューザ川崎シンフォニーホールも、再開まで残るところ半年と少し。頑張ってと申し上げたい。
     ⇒音楽の友9月号 演奏会評

コメント

歌を<詠う>には、持ち役もあるし、発声も違えば、音の質感・量感も違います。

そうだとすると、<<チャールズ・キムの強靭なソロ>>は、さしずめ本人の持ち役のドンカルロ。のように受け取っていて。他方は、ドンカルロのロドリーゴのように。。
************************
前半の音の柔らかさ、後半は、<<鬱陶しく晦渋なイメージが一掃され、極めて見通しのいい構築>>(全部を聴くのは、初めて。)というものが、初めて聴く人にさわやかなキリッ!!とした量感・質感とコーラスがかみ合う。
*************************
夏の日の、公演の質に貢献するいい意味での”狂言回し”。縦横無尽に良い公演の機会と質をもたらす<メフィストフェレス>。と思いました。。。。。
************************
また、ファウストSYMを聞くと言っても、そうはないと思いました。お金のかかる何か理由がないとやり難い作品だからでしょうかね。。ベルリオーズのパクリ(影響)のようにも思えます。
*********************
7月に、良い質感のあるコンサートを維持する上で、とても素晴らしい企画でした。。。私は、そう思いました。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/1440-8ed96202
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

最近の記事

お知らせ

●2007年7月以前のArchivesを順次、アップロード中です。併せてご覧下さい。
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2006年7月

Category

ブログ内検索

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」