2019-11

2・3(日)びわ湖ホールプロデュースオペラ
 R・シュトラウス「ばらの騎士」

   (滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール)

 昨年6月以降、1シーズンに4種の「ばらの騎士」がかち合うというめずらしいケースになった、いわゆる「ばら戦争」。
 新国立劇場プロダクションは、オーケストラに難はあったがジョナサン・ミラーの演出に手堅さがあった。チューリヒ・オペラ(9月)とドレスデン・オペラ(11月)は、もちろん文句のつけようがなかった。さて、いよいよ第4次(?)が、このびわ湖ホールと神奈川県民ホールの共同制作、東京二期会共催によるプロダクションである。その2日目。

 これはもう、うれしい驚きといっていい。第一に挙げるべきは、沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)と、彼の率いる大阪センチュリー響の充実した演奏だろう。
 正直言って、このコンビがかくも豊麗なR・シュトラウスを創り出すとは予想もしていなかった。現代音楽の分野の方に切れを見せる沼尻の個性からみて、明晰で冷静で感傷の影のない「ばらの騎士」が演奏されるのではないかと聴く前には思いこみ、いささか構えた気持でいたのだが、始まってみればなんと、自分の耳を疑ったほどである。音には拡がりと厚みがあり、ピアニシモにも豊かな余韻があふれていた。あのワルツにも、紛れもないR.・シュトラウス節が聞き取れたし、第3幕の3重唱を支えるオーケストラの柔らかい旋律に満ちていた叙情美など、一流品の演奏といっても決して誇張にはならないだろう。
 これは、沼尻の芸域が目覚しく拡がって来ていることを示すものと思って間違いあるまい。3月には横浜公演があるから、ぜひ首都圏のファンにも聴いてほしいところだ。ただしオーケストラが違うので、今日と同じようになるかどうかは保証の限りでないが。

 演出はアンドレアス・ホモキ。舞台と衣装とかつらは、2006年4月にプレミエされたベルリン・コーミッシェ・オーパーのプロダクションによるものという。
 字幕を読んでいては見逃してしまうくらい、演技は細密で心理的ニュアンスに富み、人物は猛烈にめまぐるしく動き、時には極度に喜劇的にもなる。このあたり、いかにもベルリン・コーミッシェらしいセンスだ。同時に、ホモキがここまでやるかと思うような世俗的な雰囲気も横溢している。舞台装置が恐ろしく簡素なため、元帥夫人の寝室たる第1幕あたりは味も素っ気もない感じもあるが、第2幕と第3幕は少々煩わしいほど賑やかである。
 第1幕で髪結師が登場せず、かつテノール歌手が一種の心理的・象徴的な存在として扱われているのがユニークだ。第3幕の最後で、オクタヴィアンとゾフィーが先に退場して舞台の外で歌い(ここはシュトラウス節のファンにとっては音響的に不満が残るだろう)、元帥夫人が気落ちして倒れ伏し(ベヒトルフ演出でのアイディアとどちらが先?)衣装を脱ぎ捨て、ある複雑な演技を行なうところも、一捻りした演出で面白い。

 舞台装置は、横幅がびわ湖ホールの舞台のほぼ3分の1しかなく、天地も半分くらいか。これが中央に設置されている。客席の左右からは完全に「見切り」が生じるだろう。小さいコーミッシェの劇場では充分な大きさかもしれないが、このびわ湖ホールでは(でさえ、というべきか)、何か小さなところに押し込まれた舞台、といった感じがする。大きなリビング・ルームで小型テレビを見ているような感覚だ。巨大な神奈川県民ホールでは大丈夫なのだろうか?

 今日の主役女性歌手3人はいずれもすばらしい歌唱を聴かせ、音楽的にも充分な満足感を与えてくれた。特に元帥夫人マルシャリンの佐々木典子は、正装すると実に気品があって舞台栄えする。オクタヴィアンの林美智子は獅子奮迅の演技で、いかにも17歳の少年にふさわしく、ズボン役としても魅力的だ。ゾフィーの澤畑恵美は、オクタヴィアンよりずっと大人っぽい雰囲気なのが唯一の違和感だが、それは相対的な面での問題。
 オックス男爵の佐藤泰弘は馬力のある低音で聞かせたが、メイクもろとも、やや野卑に過ぎたのではないか(遠くから見ると、志村けんのバカ殿のよう)。彼ならもっと洒落たオックスも可能だったろうに。

 というわけで、雪の中を遠くびわ湖ホールまで出かけた甲斐のある「ばらの騎士」であった。「ばら戦争」は4戦全勝といっていいだろう。「タンホイザー戦争」の方は1勝3敗だったが。
 

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