2020-04

1・17(火)METライブ・ビューイング グノー:「ファウスト」

    新宿ピカデリー  10時

 今シーズンのメトロポリタン・オペラ(MET)のニュー・プロダクション、グノーの「ファウスト」。12月10日上演のライヴ映像。

 今回のデス・マッカナフ演出の舞台は、かなりよく出来ていると思う。少なくとも、過去にMETで観た2種類の演出――ピーター・マックリントックの伝統的な古色蒼然たるプロダクションや、アンドレイ・セルバンのお伽噺的で天下泰平な舞台に比べれば、よほどまとまりがいいだろう。
 この舞台では、ファウスト博士を原爆開発に関わった物理学者とし、原爆ドームやキノコ雲の映像なども交じって(先日の「ドクター・アトミック」同様、われわれには心穏やかならざる光景である)、物語を現代化して設定している。

 ただ問題は、冒頭に白衣を着て並んでいた物理学研究所のスタッフとおぼしき者たちが最後に神キリストを讃えて合唱する役割を担うことや、キノコ雲の映像の前で打ちひしがれるファウスト博士の前をよろめきつつ横切って行く異形の者たちが「ワルプルギスの場」で醜い亡者として登場する(これが最初から「難民」や「被爆者」でなく、悪の魔物として設定されていたのならどうということはないのだが・・・・)という2点。それが、どうも納得の行かぬところではある。

 ラストシーンでは、青年ファウストが、再び以前の老いたファウスト博士の姿に戻るという形になる。すべては自殺しようとして飲んだ毒酒の為せる幻想だったというわけか。哀れファウスト、覚めれば槿花一朝の夢――。しかしこの手法は、以前ヘニング・ブロックハウスが使った設定でもあった(1995年・藤原歌劇団公演)。

 主演の3人が素晴らしい。ファウスト役のヨナス・カウフマンは、まさに惚れ惚れするほどの歌唱と舞台姿と演技だ。メフィストフェレスのルネ・パーペは、前回のセルバン演出での尻尾を生やしたマンガチックな悪魔と違って、今回は正装姿の堂々たる魔人として迫力を出す。マルグリート役のマリーナ・ポプラフスカヤも今回は予想外に良く、彼女の成長を示していた。
 他にヴァレンティンをラッセル・ブローン、シーベルをミシェル・ロズィエ、といった歌手たち。

 だが何といっても驚異的に素晴らしいのは、私の贔屓若手指揮者の1人、ヤニク・ネゼ=セガン(セギャン)である。
 音楽の流れが本当に自然で瑞々しく、終始緊迫感を失わず、グノーの音楽の良さを最大限に発揮させて聴き手を惹きつける。この指揮を聴いただけでも、今回の「ファウスト」に接した甲斐があったというものだ。彼は大物になるだろう。

 なお、バレエ音楽は省かれていた。如何に原則ノーカット主義のMETでも、さすがにそこまでは上演時間を引き延ばせなかったとみえる。とはいえ、あの取って付けたようなバレエ場面をやらず、本体の音楽をカット無しで演奏した今回の姿勢は、評価できよう。
 午後2時終映。

コメント

ファウスト・ワルプルギスの夜

私もあの被爆者を思わせる霊達が、悪魔の宴で食事を供されている場面には、不快感を禁じえません。ひどい。演出家は、その悲劇を責任を知った物理学者をひきあいに出し、今回の演出のインスピレーションにしたと、語っていた。が、被爆国の人間には、原爆で傷つけられた姿が、あのように地獄に生息しているという想定にも、グロテスクな好奇心で安直に扱われていると、憤りを覚える。他は、東条氏に賛同する。素晴らしい歌い手で、マルグリット役の上手さに声の張りに感動いたしました。

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