2020-07

1・7(土)山下洋輔プロデュース~アン・アキコ・マイヤース

    東京オペラシティコンサートホール  6時

 「東京オペラシティ ニューイヤー・ジャズ・コンサート2012」の「山下洋輔プロデュース アン・アキコ・マイヤース初夢ヴァイオリン」と題されたコンサートを聴く。

 山下洋輔のピアノをナマで聴くのは、本当に久しぶりである。
 第1部でまず彼がソロで演奏し始めた瞬間、何といい音だろうかと思う。低音域をたっぷり響かせた豊麗でスケールの大きな和声感が素晴らしい。だがそれも束の間、次第に彼らしいダイナミックな大暴れが演奏に拡がって来る。
 しかし、どんなに激しいパッセージを演奏する時でも、昔と違ってやはり今の彼の演奏の表情には、丸みと、温かさと、余裕のようなものが溢れているようである。彼ももう70歳近いわけだから、ある意味ではそれも当然かもしれない。

 実は30年ほど昔、私はFM東京で、彼を主人公にしたドラマをプロデュースして制作したことがあった――ある男が、ピアノのある特定の一つの音の鍵盤に爆薬発火装置の電線を接続し、その一つの音だけを一切使わずにアドリブ演奏を十数分出来るか?と、山下洋輔に挑戦状を送る。山下はプロ根性でこの挑戦を受けて立ち、見事その音だけを使わずに、豪快華麗で長大なアドリブをやってのける――と、たしかそんなストーリーを、彼の演奏入りで構成したドラマだった。
 もちろんその話自体はフィクションだが、当時の彼は、そういう物語を発想させるにふさわしい、切れば血の出るような鮮烈な演奏をするピアニストとして評判だったのだ。

 で、今夜のコンサートだが、2曲目は、山下洋輔プロデュースによるこのシリーズの今年のゲストであるアン・アキコ・マイヤースが「荒城の月」を主題にしたソロを弾く。そして3曲目に2人の協演で、山下のオリジナル曲「エコー・オブ・グレイ」が演奏される。――と、第1部はそれだけで終る。
 正直言って、もっと山下の大暴れが聴きたかったし、アンとのデュオでも丁々発止たるアドリブの応酬が聞けるのかと楽しみにしていたのだが・・・・。2人の協演は演奏会の最後のアンコールでも「虹の彼方」が聴かれたが、これも美しい演奏ではあった(が、・・・・)。

 第2部では、アンが本名徹次指揮東京フィルと協演して、ガーシュウィンの「サマータイム」、デュークの「オータム・イン・ニューヨーク」、モーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲第3番」を弾く。
 このうち協奏曲のカデンツァはウィントン・マルサリス版とのことで、これを楽しみにしていた方も多かろう。私も実はそれがお目当ての一つだったのだが、案に相違して、さほどのこともございませんねえという程度のものに終った。
 ジャズ関係の音楽家がクラシックに手を出す時、妙に様式に遠慮してしまうことがあるようだが、もっと思い切って大胆不敵に、己のスタイルでクラシックに割って入って来てはくれないものだろうか? 
 これなら、ナイジェル・ケネディがCDに入れていたモーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲第4番」第1楽章でのカデンツァや、ヒラリー・ハーンが横浜で聴かせたベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」第2楽章最後でのカデンツァの方が、よほど斬新だった。
 なおソロとオケとのアンコール曲は、チャップリンの「スマイル」(挟間美帆編曲)。

 アン・アキコ・マイヤースも、80年代後半に初来日した時には初々しい少女だったが、今や堂々たる女史。体形は変わっていないが、3月にはおめでたとやら。茶目っ気のある片言の日本語は昔ながらのもの。演奏はカンタービレを利かせた流麗なスタイルで、どれも甘美な、時には耽美的な世界をも(モーツァルトの第2楽章でさえ!)感じさせる。
 彼女のお母さん(ヤスコさんだそうだ)の小学生時代の家が、山下家と隣同士だったという話は、今夜初めて聞いた。

コメント

東条先生、あけましておめでとうございます。今年も的を得た批評や新しい音楽シーンの紹介をよろしくお願いいたします。
この日の演奏、私も聞きにいって、ちょっと残念に思いました。こちら側の音楽とあちら側の音楽が激しくぶつかり合って何か大きな化学反応が起こるのを期待していたのですが、先生がおっしゃるように、両サイドが遠慮してしまっていて、一向に盛り上がりませんでした。アン・アキコ・マイヤースというヴァイオリニストはもっと自由奔放な演奏ができる人だと勝手に思っていたのですが。
気軽に聞けるイージーリスニング(古い表現ですね。じゃあフュージョン(これも古いなあ。))のコンサートとしては、音そのものは素晴らしいし(荒城の月での音の美しさはなかなかのものでした)山下さんのピアノも昔と違って、いや遠慮していたせいで、かなりわかりやすかったので十分楽しめましたが、この二人からならもっと過激な音楽が聴きたかった。
アン・アキコ・マイヤースはお腹のあかちゃんに遠慮していたようにも感じました。
いつか、再挑戦してほしいと思います。

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