2020-04

2012・1・3(火)NHKニューイヤーオペラコンサート

    NHKホール  7時

 今年が第55回になる由。
 第1回は1958年、NHKの内幸町局舎時代の第1スタジオから、金子登指揮東京フィルと東京放送合唱団、砂原美智子、川崎静子、藤原義江、栗本正ら10人の歌手の出演で放送されたとのこと(プログラム掲載の資料による)。

 今年はソロ歌手21、合唱団4、バレエ団1、踊り手2、という規模だ。もっとも、出演するソロ歌手の数は、1960年代に入って以降は、大体この規模だろう。
 最近では、前年に出演した歌手のうち約半数は入れ替わるようだ。しかし中には、今年まで7年連続出場の福井敬(T)、6年連続出場の堀内康雄(Br)といった人たちもいる(以前には立川清登、五十嵐喜芳、佐藤しのぶなど、20年くらいの連続出場を果たしていた歌手たちも多かった――同資料)。

 今年も錚々たる顔ぶれだし、みんな一所懸命歌っていたことは確かだが、その中で私にとって特に印象の強かった人たちを挙げるとすれば――まず冒頭で「だれも寝てはならぬ」を歌った福井敬。
 この人は、やはり声の響かせ方が巧いなと思う。1階席で聴いていると、声が強靭に、まっすぐ伸びて来る。そのあとに続いた村上敏明、森麻季、林美智子、成田博之といった人たちの声がみんな舞台の中に引っ込んでしまったようなもどかしい響きで聞こえていた(変なPAで増幅されるよりはずっとマシだが)のに比べると――もちろん立ち位置が影響するのは事実だが――やはり迫力が違う、という感だ。

 そして、ソロで歌った歌手の中では何と言っても、大トリ的待遇で「サムソンとデリラ」の「君が御声にわが心開く」を歌った藤村実穂子。
 これはもう、歌唱にあふれる緊迫感からしてずば抜けたものだ。ホール全体を彼女の存在1点に集中させてしまい、聴衆が息を呑んで聴き入るという雰囲気を作り出す。バイロイトやウィーンなど世界の檜舞台で主役を歌い場数を踏んでいる人ならではのド迫力、というべきだろう。

 アンサンブルとともに歌った人の中ではまず、第2幕後半をオペラ形式で上演した「ラ・ボエーム」の中でムゼッタを歌った中嶋彰子の華やかな存在感が目立つ。もし演出がモダンなものだったら、彼女の演技力はもっと光ったであろう。
 また例年重鎮的な存在を示す堀内康雄は、今年は「トスカ」の第1幕幕切れの「テ・デウム」を歌ったが、ここはどんなスカルピアでも合唱にマスクされてしまう個所なので、ナマで聞く限りは、いつもほどには映えなかった。
 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のフィナーレでザックスを歌った妻屋秀和は、スケールの大きさを感じさせて好ましい。ただ、この3人とも、もし新国立劇場のようなまともなアコースティックのホールで歌ったなら、更に素晴らしかったはずである。

 なお「ラ・ボエーム」で、「ニューイヤー」には1970年以来の出演という平野忠彦がアルチンドロ役で「特別出演」し、すこぶる滋味豊かな歌と演技を見せていたのが懐かしかった。
 一方、人気者ゆえにあえて苦言を呈したいのが森麻季。「椿姫」のヴィオレッタを歌ったが、「ああ、そはかの人か」のパウゼの部分が全く生きた「間」になっておらず、歌がだれてしまうのだ。早いうちに修練をして欲しいものである。

 合唱には、新国立劇場合唱団、二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部、NHK東京児童合唱団が出ていた。曲別に分担して歌ったのか、混合で歌ったのかは定かでないが、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の合唱の音色に透明感があって、これが一番美しかった。

 バレエは「牧神の午後」で、後藤晴雄と上野水香と東京バレエ団が出演したが、ニジンスキーの振付ともども、何となく冴えない幕間劇のような扱いになっていて、せっかくの企画もあまり生きない印象である。しかもここだけ音楽に録音が使われ、しかもそれが比較的か細い音量で流れ続けたこともあって、ドビュッシーの美しいピアニッシモも遥か彼方の、生命のない機械的な音と化してしまった。これは失敗だろう。

 オペラでの演奏は、下野竜也指揮の東京フィル。
 言っちゃ何だが、こんなに生気のない、硬直した指揮をした下野は、初めて聞いた。およそ彼らしからぬ指揮である。歌手に合わせなければならないとか、生放送の進行に合わせなければとか、いろいろ慣れない裏の事情もあったのだろう。普段の彼の指揮を知るだけに、この場合は些か同情してしまった次第。まあ、できるだけ早くオペラに慣れて欲しいところだ。

 もう一つ、司会のこと。NHKらしく騒々しくないのはもちろん好ましいスタイルだが、2人の会話までが台本マル読み調になるのもNHKの悪しきスタイルだ。そのため、感動したとか何とかいうコメントまでもが、いかにも見え透いた作りものに感じられ、聞いていると照れ臭くなってムズムズして来る。これなら、1人語りの朗読調による紹介の方がよほどすっきりするだろう。
 また、野村正育アナが特定の歌手2人ほどに「日本を代表する」と紹介を付けていた(読んでいた?)が、これはあのような場では、明らかに他の歌手たちへの非礼になろう。
 そして更に、昨年の大震災で被災した人々への激励をこめるのはもちろん結構だが、といって作品や歌詞の内容を殊更に、無理に――時には本来の意味を曲げて――それに結びつけて紹介するのは、むしろわざとらしくて不自然であろう。

コメント

猫からも新年のご挨拶申し上げまする。

お茶の間のテレビでのぞきみた猫には、堀内康雄さんは例年に増して、姿も声も立派に映えて見えたニャり。なるほどこういう役が一番お得意なのかと思ったところだったニャリ。

幸田さんのキャンディードもよかったなあ。猫、一緒に手振って踊りたい気分になったぞよ。

バレエのところは、会場は休憩時間だったのかの?猫もちょっこしテレビの前から失礼したニャリ。

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TVで一部を聴いただけですが、バレエに関する記述以降はまったく同感です。藤村実穂子は期待していたのですが音程がかなり不安定だったように思います。妻屋秀和は歌唱時のしぐさ、燕尾服から早代わりのつもりの演出(本人の責任ではありませんが)と徒弟のような衣装にげんなりでした。
コメント欄の「招き猫」氏の文体は、ついうっかり読んでしまった時いつも体中がムズムズしてきて不愉快です(「招き猫」氏には失礼を承知で投稿いたします)。

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