2020-04

11・23(水)黛敏郎のオペラ「古事記」 日本舞台初演

    東京文化会館  2時

 オーケストラ・スコア完成が1993年、リンツ州立劇場での初演が1996年、日本での演奏会形式初演が2001年。そしてやっと今回、日本での舞台初演が実現したわけだ。
 日本人の手による注目作でありながら、これまで国内で一度も舞台上演されていなかったという事実は、やはり日本のオペラ界がどこかいびつな状態にあることを示すものだろう。
 ドイツ語台本は中島悠爾。今回もドイツ語上演で、字幕がつく。

 「古事記」といっても、原典は膨大な内容だが、このオペラではこうなる――第1幕がイザナギ、イザナミの「国生み」の話。第2幕では、スサノヲの狼藉から、天岩戸の場面と、スサノヲの追放までが描かれる。第3幕が、八岐大蛇を退治してクシナダ姫と結ばれるスサノヲの物語。第4幕がスサノヲから使者を通してのアマテラスへの「むらくもの剣(草薙の剣)」献上と天孫降臨の場。

 ストーリーに少し飛躍はあるが、正味1時間45分ほどの演奏時間の範囲で、コンパクトによくまとめられている。
 とかくだらだらと長くなることの多い日本のオペラの中で、こうした要領のいい作劇法は、貴重な存在である。

 黛の音楽は、特にオーケストラは、どちらかと言えばシンプルで率直で、映画音楽的なスペクタクル性にあふれた、分厚い響きの強靭な力感に富んだものだ。
 神秘的な不気味さを描く時には、低音域でのリズムのオスティナートが効果を発揮するが、これはあの「金閣寺」でも聞かれた手法ではなかったか? 嵐のような同一音型で煽る手法は、クルト・ヴァイルが「7つの大罪」の「怠惰」で試みたものからの影響もあるように思われる。

 合唱のパートがこれまた見事で、それは時にコロス的な役割となり、時に八百万の神々の騒ぎとなり、実に表情豊かに活躍する。このあたり、黛の手法は驚嘆すべきものだ。
 これを指揮する大友直人の要を得た音楽づくりも素晴しい。東京都響が充実した演奏を聴かせ、新国立劇場合唱団と日本オペラ協会合唱団も特筆すべき見事な出来を示した。

 岩田達宗の演出も、これは彼のヒット作の一つに数えられるだろう。円形の回転舞台(舞台美術は島次郎)も効果的で、照明(沢田祐二)を活用した八岐大蛇退治の場面も、象徴的だが巧く出来ている。その中でも私が感銘を受けたのは、群衆の扱いだ。特に天岩戸の場面での八百万の神々(にしては大衆的な衣装だったが)の熱狂ぶりなど、極めて巧妙な動きに作られていたのであった。

 出演は、甲斐栄次郎(イザナギ)、福原寿美枝(イザナミ)、高橋淳(スサノヲ)、浜田理恵(アマテラス)ら、手堅い顔ぶれがそろう。歌を浮き立たせるための管弦楽の扱いが巧い黛の作曲技法と、大友直人の響かせ方の巧さで、少し弱いかなと思われる歌手の声も明晰に聞き取れて、そのあたりも愉しめるものだった。4時10分終演。

 これは、意義ある上演と言えるだろう。
 神話と歴史とは事実上は別ものであるという考え方は、もはや今ではオーセンティックなものであるはずだ。それを意図的に歪めて混同させながら攻撃を加える人など、もういないだろうとは思うのだが・・・・。

     ⇒モーストリークラシック 2月号演奏会レビュー

コメント

東条先生、お疲れ様です。

私も関西から駆けつけ、初日20日の公演を鑑賞しました。
金閣寺に比べて明快な音楽であることにまず驚きましたが、全体としてすばらしい公演で大いに感銘を受けました。

作品の構成ですが…愛し合う兄妹、輝けるヒロイン、三幕では流離するヒーローが大蛇を倒し、四幕の最後が「こうして人の世が始まる…」
…これって、やはり指環なのでしょうか?
それとも、神話の共通性なのでしょうか?

黛敏郎「古事記」(11月20日)

いつも悪役・エキセントリックな役ばかりの高橋淳(テノール)が初めてヒーロー(スサノヲ)を歌ったのではないだろうか。高橋ファンとしては記憶に残る作品となった。
一度、彼のヒーロー役を観てみたいと思っていたのでそれがかなった感じ。
登場したときの狼藉ぶりは、いつものエキセントリックな役に近いかも知れないが…。

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