2017-10

11・5(土)MET ワーグナー:「ジークフリート」

 メトロポリタン・オペラ  正午

 土曜日午後のマチネー。恒例のMETライブ・ビューイングの中継があり(日本では11月26日より録画公開)上下両側に設置されたクレーンを含め、TVカメラが無数に見える。

 このMETの新しい「ニーベルングの指環」は、ロベール・ルパージュの演出が話題を呼んでいるが、哲学的解釈や演技の面ではさほどの新味も見られないので、結局は舞台上の効果のみで特色を出したプロダクション――ということになろう。
 これは、ルパージュのセンスもさることながら、アシスタント演出のネイルソン・ヴィニョール、舞台装置のカール・フィリヨン、照明デザイナーのエティエンヌ・ブシェら、制作スタッフの感性の勝利ともいうべきものである。

 何しろ4部作を通じて(残るは一つだが、多分同じだろう)舞台装置はただ1種類、舞台一杯に並ぶ無数の白い鍵盤のような、コンクリート板のようなものだけだ。
 ところが、これが変幻自在、千変万化、位置を変え角度を変え、巧みな照明効果により岩山になり、洞窟になり、森になる。投影される炎や森や水の映像はリアルで美しい。「森の小鳥」もそこに映写されるが、その動きや表情の生き生きした精巧さと来たら、全く感心させられるほどである。
 この光景は、すでにMETライブ・ビューイングで観た「ラインの黄金」「ヴァルキューレ」でも堪能できたものだが、やはりナマで間近に見ると、その壮烈な巨大感に呑まれてしまう。

 しかし、こういう視覚的効果で勝負した舞台は、ドイツの――また日本の、哲学思想優先万能のワグネリアンたちからは、冷笑されるタイプのものであるかもしれない。先年、日本でも上演されたマリインスキー劇場版「指環」の時の反応を考えれば尚更である。ただ、最近はそういうタイプの舞台のほうが多いことは確かだ。それに、舞台としては、このMET版は完璧に出来ている。
 なお、第2幕に現われる大蛇は、いかにも絵に描いたような蛇で、些かマンガチックな愛嬌のある姿だ。

 さて、指揮は、総帥ジェイムズ・レヴァインが降板したので、ファビオ・ルイージが代ってピットに立った。
 歌劇場で彼の指揮するワーグナーを聴くのは、私はこれが最初だが、とにかく音楽が柔らかい。
 あらゆるモティーフがまろやかで豊麗な響きの中に包まれて、一つ一つを意識させることなく、美しく流れて行く。
 ワーグナーの音楽特有の、巨大感も威圧感もない。
 第3幕前奏曲では、嵐の音楽でさえなだらかな流れになり、内声部でホルン群などが不気味にとどろかせているはずの「ヴァルキューレの動機」のリズムも、微かにそれと聞き取れる程度だ。ブリュンヒルデの目覚めの個所でも、オーケストラはソフトにクレッシェンドするだけで、新しい世界が開けるような壮絶な昂揚は感じられない。

 これは、いわゆる魔性的なものの皆無な、優麗で平和な「指環」だ。こういうワーグナーも現代ではあり得るのか?
 その代わり、彼女の心にジークフリートへの愛が芽生え始めるあたりの叙情的な音楽は、きわめて優しく美しい演奏になっている。

 歌手陣。
 ジークフリート役はギャリー・レーマンからジェイ・ハンター・モリスに変わった。よく頑張って、少年っぽい性格は出ていたが、「鍛冶の歌」や最後の二重唱などでは、ヘルデン・テナーとしては少し無理が感じられるところもある。
 デボラ・ヴォイト(ブリュンヒルデ)も、やはり高音は明らかに苦しくなって来たようだ。ブリン・ターフェル(さすらい人=ヴォータン)は少し影が薄いが、最近の彼の声からすれば仕方のないところもあるだろう。
 エリック・オーウェンス(アルベリヒ)とハンス=ペーター・ケーニヒ(ファーフナー)はまず無難な安定。

 良かったのは、明晰な声で智の女神エルダを歌ったパトリシア・バードン(上手くなった!)、儲け役と言っては気の毒だがミーメを巧く歌ったゲルハルト・ジーゲル。
 それに大成功だったのは、清涼な声で「森の小鳥」を爽やかに歌ったモイツァ・エルトマンだった。

 30分の休憩2回を挟み、終演は5時20分頃。これだけでも重量感充分だが、今日は未だもう一つ残っている。とりあえず食事をして、一度ホテルに戻り、瞬時の休息。

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