2020-04

11・4(金)MET フィリップ・グラス:「サティアグラハ」

 メトロポリタン・オペラ  7時半

 フィリップ・グラスのオペラ「サティアグラハ」は、1980年にロッテルダムで世界初演されたものだから、最新作というほどのものではない。METでは3年ぶりの再演で、今日がその初日だ。

 昨日と違って、流石に「好きな客」が多いらしく、終演後は殆どの客がスタンディング・オヴェーション。
 ブラヴォーよりは奇声と歓声、口笛が盛んで、若い客が圧倒的に多い。若い観客を開拓するには現代ものをレパートリーに取り入れるが良い、とはよく言われることだが、METも最近ジョン・アダムズやこのフィリップ・グラスなどの定評ある現代オペラを――委嘱新作ものはあてにならぬと見てのことだろう――再演も含めて取上げることが少しずつ増えているようである。

 ストーリーは、第2次大戦後に暗殺されたインドの聖者ガンディーの若い頃――南アフリカ滞在時代(1893~1914)の出来事を描く。
 英国のインド人差別や弾圧に対し、非暴力主義という真実の力または把握(サティアグラハ)で立ち向かい、インド民衆のリーダーとしての道を開いて行くガンディーが主人公になる。

 とは言っても、歌詞は全篇サンスクリット語(だそうである)で歌われ、しかも字幕が全くつかないので、事前の解説資料や、舞台装置の背景に投影される象徴的なキーワードのようなもので内容を理解するしかない(METライブ・ビューイング――12月10日より公開――では字幕が付くのでしょうね?)。
 それでも今日の観客は熱狂していた。ガンディー役のリチャード・クロフトが登場しただけで拍手が起こるのは、前回の上演を観た人々も大勢来ているという証拠だろう。特に最後のカーテンコールでフィリップ・グラス自身が姿を見せた時には、場内総立ちの大歓声となった。彼への信奉者は相変わらず多いようである。

 音楽は、もちろん典型的なフィリップ・グラスの語法によるものだ。同じ音型が少しずつ形を変えながら延々と続くミニマル系の音楽が、聴き手を一種の陶酔感に引き込んで行くことは、周知の通りである。
 その音型の反復の上に、息の長い歌の旋律が乗せられて行く個所もあるのだが、それを耳にしながら、もしかしたらこれに別の旋律を乗せて置き換えてみても面白いかな、と妙なことを考えてしまった。その昔、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」第1巻の最初のプレリュードの分散和音に、グノーが別の旋律を乗せて「アヴェ・マリア」という曲に仕立てた、あのテである。

 こんなことを書くと、見当違いのくだらんことを言うな、お前はグラスのことなど全く解っていない、と怒鳴られるかもしれない。が、ことほど左様に「繰り返しの恍惚」はさまざまな感覚や連想を惹起させて魅力的である、ということを言いたいのである。しかし、長いオペラとしての作劇法の上では、特に最後の場面では、やや冗長に感じられるところがある、というのも事実であろう。

 指揮は、3年前にもMETでの公演を指揮したアルゼンチン出身のダンテ・アンゾリーニ。欧州の歌劇場では現代ものだけでなくロマン派、イタリア・オペラなども指揮しているそうだが、私は彼を聴いたのはこれが初めてである。
 METのオーケストラの音色はこういう作品においても更に美しさを発揮するが、奏者たちの気の使いようも大変だろう。

 歌手陣では、ガンディー役のリチャード・クロフトが、もちろん見事な歌唱と演技力だ。その他、第2幕最後で西欧人から迫害されるガンジーをかばうアレクサンダー夫人役のマリー・フィリップスら、共演者たちもしっかりしていて聴き応えがある。第2幕冒頭でガンジーを嘲笑・罵倒するかのような、いかにもグラス的なリズムを完璧に刻んで行く男声合唱をはじめ、METの合唱団の充実ぶりも素晴しい。

 演出は、フェリム・マクダーモット。アシスタント・ディレクターおよび舞台装置はジュリアン・クローチ。
 演技と劇的な展開は、第1幕ではむしろ象徴的なスタイルに抑えられて動きは少ないが、抵抗運動をアピールしつつインドから南アフリカへ戻ったガンディーが迫害される第2幕から激しい動きが出る。第3幕大詰めで、ガンディーの指導するインド人の集団が一斉に「居住登録証」を燃やして抵抗の意を示すくだりなど、なかなかの迫力だ。
 絆のテープや新聞が、群集の手によってさまざまに形を変えて行ったり、人間が宙に浮かんでは消えて行ったりする象徴的な光景の数々も、幻想的で美しい。

 特に感動的に美しい舞台は、全曲のラストシーンだ。背景に拡がる青空と雲、そこに浮かび上がるガンディーのかつての仲間たちの幻影など、涙を催させるほど夢幻的である。理想を追い求める彼の歌(同じ旋律モティーフが何度も反復される)が、不思議に白々とした寂寥感を滲ませて行く。

 かくして30分の休憩1回を挟み、終演は午後11時15分頃。ホテルへ戻ればまた午前0時近く、ヘトヘトに疲れる。

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