2020-05

11・3(木)MET モーツァルト:「ドン・ジョヴァンニ」

    メトロポリタン・オペラ  7時30分

 日本時間3日の朝11時のANAで成田を発ち、米国東部時間3日の朝10時半にJ.F.ケネディ空港に着く。まだサマータイムであり、日本との時差は13時間。マンハッタンのホテルには正午少し前に入る。リクエストしていたアーリー・チェックインが幸いに叶えられたので、少し午睡して夜の公演に備える。

 市内には、雪などすでに痕跡もない。夜でもコートなしで歩こうと思えば歩けるくらいの気温だ。ホテルよりMETまで、早足で歩いてもやはり15分~20分かかるが、運動のためにはいいだろう。坐骨神経痛が治っていなかったら、こうは行かない。

 「ドン・ジョヴァンニ」は、マイケル・グランデージによる新演出だが、期待したわりには、かなりトラディショナルなものに留まっていて、人物関係に何か新機軸の視点を取り入れるというほどの舞台ではない。
 「地獄落ち」の場面では、ジョヴァンニは舞台中央から奈落に落ちて行く。その周辺に噴き出す火炎の猛烈さが、ケレン味というところか。だがこの程度なら、先年のザルツブルク音楽祭での「魔弾の射手」でもやっていたものだ。

 指揮は、レヴァイン降板を受け、ファビオ・ルイージとルイ・ラングレーが振ると発表されていたが、今日はラングレーが指揮した。これが良かった。
 彼の指揮は、それほど個性的というほどではない。しかし、フルートの音色などには透き通って美しい響きが生まれる。あざとい誇張や飾り気は一切なく、快走するテンポ運びが爽快だ。

 序曲や第1幕前半あたりではMETのオーケストラとの呼吸も今一つという感で、粗さがなくはなかったが、第2幕後半にいたり、ラングレーの本領が発揮される。「ドン・オッターヴィオのアリア」での木管の透明な音色の美しさをはじめ、地獄落ちの場面での見事な緊迫感(これは出色の出来だった)と、最後のアンサンブルの確固としたオーケストラの構築(これも盛り上がりを示した)など、素晴しい締め括りを作り出していた。
 このあたりを聴いただけでも、今日の指揮がラングレーで愉しかった、と思うゆえんである。

 歌手陣は、マリウシュ・クヴィエチェン(ドン・ジョヴァンニ)、バルバラ・フリットリ(ドンナ・エルヴィーラ)、マリーナ・レベカ(ドンナ・アンナ)、ラモン・ヴァルガス(ドン・オッターヴィオ)、ルカ・ピザローニ(レポレッロ)、モイツァ・エルトマン(ツェルリーナ)、ジョシュア・ブルーム(マゼット)、ステファン・コチアン(騎士長)と、まずは人気歌手を揃えて、これはなかなかの顔ぶれと言えたであろう。

 特にタイトルロールのクヴィエチェンは、スピーディな感じで切れ味が良く、「シャンパンのアリア」でも急速なテンポとリズムを完璧に保ち、胸のすくような勢いの歌唱を聴かせた。このアリアがオーケストラと全くズレることなく正確に歌われたのは、録音でならともかく、ナマでは珍しいのでは?
 しかも大詰めの石像との対決場面では、音楽が進むにしたがって次第に声を強靭に盛り上げて行き、恐怖感と虚勢とを巧みに交錯させ、実に見事なクライマックスを創り出していた。遠めに見る舞台姿は、この役としては貫禄や色気といったものが未だ不足気味ではあるものの、このラストシーンの劇的な歌唱一つで、彼のドン・ジョヴァンニは大成功と讃えられてしかるべきだろうと思う。

 彼と同じく今シーズンがMETデビューとなったモイツァ・エルトマンは、予想通り清純清涼な声で――演技の表情の方は何せ遠くてよく分らないが――この役には合っていただろう。
 ピザローニとコチアンは安定していて、破綻がなく、好演。

 疑問があるとすれば、ヴァルガスと、フリットリと、レベカだ。
 特に前2者は大スターで、実力には全く不足ない。が、その歌唱スタイルが、ラングレーの指揮するピリオド楽器(的)スタイルに対しは、何とも水と油のような存在になってしまうのである。ルイージの指揮でだったら――もちろん当初の予定通りレヴァインの指揮でだったら、違和感は無かったのかもしれない。
 その点レベカは、透き通ってよく伸び、少し冷たいところもある声質が、ラングレーの指揮にも、少し冷たいドンナ・アンナという性格にも合致していたと思われる。
 それにしてもこの女声歌手2人の声は強力で、第1幕最後の大アンサンブルではひときわ小気味よく全体を突き抜け、朗々と響いていた。

 1階に座っているお客さんの一部(全体ではない!)は、実によく笑う。こんなところ、笑う個所ではないだろうにと思ってしまうのだが、まあ屈託なくよく笑う。ドン・ジョヴァンニの地獄落ち場面が終わると、盛大な拍手が巻き起こり、アタッカで入るはずのアンサンブルの音楽を止めてしまう。オペラを娯楽と思って楽しんでいるのだろう。むろん、己の生き様を壮烈に貫いたまま玉砕した主人公に感動したり、音楽の魔性に心を打たれたりしている人だっているはずだと思うのだが・・・・。

 30分の休憩を挟み、終演は10時50分頃。1階席の客のうち、3分の1は、演奏が終わるや否や席を立ちはじめた。カーテンコールはそこそこ熱烈だったが、幕が一度降りたら、それでおしまい。上演の出来からすれば、もっと長くてもよかったろうに。

コメント

よっ、文化の日にメトでオペラとは、よかったですニャあ!笑いのつぼの件、客席には若者も多いのですかニャ?それとも日本と同じようにご年配のお客さんが多いのですかニャ?素朴な疑問であります。

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