2020-05

10・24(月)下野竜也指揮読売日本交響楽団

    サントリーホール  7時

 ジョン・アダムズ作曲の「ドクター・アトミック・シンフォニー」と、團伊玖磨の交響曲第6番「HIROSHIMA」という、下野&読響でなければやらないような意欲的なプログラム。よくぞこういうものを取上げたものだと、まず賛辞から申し上げたい。

 「ドクター・アトミック」というオペラは、オランダでのライヴがDVDでも出ている。
 ピーター・セラーズの台本による、原爆を題材にした作品だが、原爆が爆発する模様を描くオペラではない。1945年夏、原爆が開発され、その最初の実験が行なわれる瞬間までを描くものだ。
 なにしろ原爆とはどんなものかも、その効果と影響がどのくらいのものかもよく解らなかった時期の話である。科学者の苦悩、その家族の不安、軍幹部の焦燥などが交錯しつつ進む。上演時間3時間弱、やや冗長な部分があるにしても、ある程度はよく出来ているストーリーと言えよう。

 だが、こういう内容の作品を平静な気持で観られる日本人は、まず居ないだろう。とりわけラストシーン、緊張の秒読みから、スウィッチが押され、息を呑んで「その瞬間」を待つ関係者たちの顔に、白い、次いで赤い光が当たり始め、やがて突然女性の日本語で「水ヲ下サイ・・・・助ケテ下サイ」という声が聞こえて溶暗して行くあたり、何とも暗鬱な感情に落ち込まざるを得ない。ストーリーの点だけからみれば、日本人としては実に後味の悪いオペラであることは事実である。

 さて、そのオペラから作曲者自身が編んだシンフォニーは、30分弱の長さだ。視覚を伴わないその音楽からは、特に説明されない限り、オペラの物語を想像することは出来まい。「交響曲第○番」でも、「交響的断章」でも、どんな名前をつけても通用するであろう絶対音楽的なオーケストラ作品と化している。
 彼の以前のオペラ「中国のニクソン」とは異なり、ミニマル系の音楽はほとんど姿を見せないが、3管編成の大オーケストラを駆使した強靭な響きにはすこぶる威力があり、音楽の推進性も豊かで、それ自体としては聴き応え充分だ。これは、下野と読響の気魄充分の演奏のおかげでもある。この作品をこれほど面白く聴けたのは、今回が初めてである。

 休憩後には、團伊玖磨の最後の交響曲、第6番「HIROSHIMA」が演奏された。これは長い。50分以上かかる。フルート5、ホルン6という大編成だが、その他の管は2~3本にとどめられ、その代わり能管と篠笛(一噌幸弘)およびソプラノ(天羽明惠)が加わる。
 いかにも團らしい豊麗壮大、かつ重厚な音響の裡に、リストやニールセンなど多くの先人たちの音楽の断片も流れ込んでいるが、團自身の「夕鶴」の中の「与ひょうの動機」のエコーも第3楽章の重要なモティーフとして生きているといったように、音楽全体の語法はあらゆる意味で團伊玖磨のものだろう。
 これも広島の悲劇を音で描く作品ではなく、むしろ「広島の復興と祈り」といったような性格を備えた大作である。

 ここでも下野と読響は大熱演で、團の色彩的なオーケストレーションがよく再現されていた。P席後方の高所で歌った天羽も好演であり、指揮者の横で鮮烈な笛を聞かせた一噌も迫力充分。
 興味深かったのは第2楽章で民謡が引用される個所や、能管・篠笛とオーケストラが対話を行なう個所などが、かつて作曲者自身がウィーン交響楽団を指揮したCDでの演奏に比べ、いかにも「日本的情緒」を感じさせる点だ。当たり前と言えばそれまでだが、ウィーン響の演奏で聴いた時には――たとえ日本の民謡を使っていても――團の作風がインターナショナルな性格に傾斜して行ったように感じられたのであった。だが、日本のオーケストラが演奏すると、やはりそこに民族的性格が鮮やかに出るものだ。

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2012年10月は細川俊夫の「ヒロシマ・声なき声」

読売交響楽団は2012年10月に細川俊夫の「ヒロシマ・声なき声」の上演を予定している(カンプルラン指揮)。筆者は被爆60年の年にこの作品の日本初演を広島で聴いている。来年のサントリーホールでの公演は細川さんがこの曲に込めた気持ちをより多くの音楽ファンに知ってもらえる良い機会であると期待している。アルト・ソロ、合唱は日本初演メンバーが広島から参加するのもうれしいこと。

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