2019-07

8・26(金)サイトウ・キネン・フェスティバル松本 オーケストラ・コンサート

    長野県松本文化会館大ホール  7時

 今年の「オーケストラ・コンサート」は、ベネズエラ出身、27歳の新鋭、ディエゴ・マテウスが客演指揮した。

 アバドの引き立てを受けてモーツァルト管弦楽団の首席客演指揮者を務め(2009年から)、近々フェニーチェ劇場の首席指揮者就任も決まっているというから、これも注目の若手ということになる。今夜が日本への公式デビューとのことで、私も彼の指揮を聴くのはこれが初めてだ。

 若さに似合わず端整で正確な指揮をする人だと噂に聞いていたが、なるほど、チャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」では、がっちりと骨太に音楽を構築する。激しい曲想の個所で、轟然とオーケストラを鳴らしながらも決して均衡を失わないところが、噂通りというわけだろう。

 その一方、次のバルトークの「ピアノ協奏曲第3番」では、ピーター・ゼルキンの透明清澄な、しかもしなやかで生気あふれるソロに呼応した美しい世界を創り出した。ティンパニが少々突出気味だったのは、マテウスの情熱の致すところなのかしらん。

 そして最後のチャイコフスキーの「第4交響曲」では、ここぞとばかりオーケストラのエネルギーを解放する。
 両端楽章での壮烈な咆哮――怒号といってもいいほどだったが――は、サイトウ・キネン・オーケストラの底知れぬ猛烈な馬力を見せつけたものだろう。
 しかしここでも、オケが野放図にならず、あくまでバランスを保っていたのが興味深い。
 第2楽章の瞑想的な主題も、作曲者が語ったような「深夜に疲れきった人が椅子に体を埋めて物思いに沈む」というイメージからは遠く、「考えながらも歩き回る」者を見ているような感覚に引き込まれる。

 総じてこのマテウス、オーケストラ統率力はなかなかのものだ。豊麗な音色と骨太な力感が、その身上だろう。それを受けたサイトウ・キネン・オーケストラも、相変わらずタフだし、おそろしく上手い。
 ただ、こういっては何だが、――壮麗で空虚な音の饗宴、という言葉が、演奏を聴きながらふと脳裡をかすめたのも事実だったのである・・・・。

 今年の「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」取材は、これで完了。
 例年に比べ、不満を感じるところもなくはなかったが、本質的にはやはり素晴らしいフェスティバルであることに些かも変りはない。

 終演後、クルマで帰京の途につく。9時50分頃には長野自動車道に入ったものの、中央高速では局地的な豪雨やら、事故による一部通行止めなどに遭遇、小淵沢ー韮崎間を甲州街道に迂回したりして時間を要す。都内の車の流れに乗ったのは、午前1時を少し過ぎた頃だった。

     音楽の友 10月号

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サイトウ・キネン・フェスティバル 8月26日(長野県松本文化会館 大ホール)

演奏の上手さと音の美しさが光った公演。
最前列で聴いた。普通、最前列であれば弦の音の乱れ、混ざり合わない弦の音の粒が聴こえるものだが、このオーケストラには一切それがなかった。まるで1人で弾いているかのような音。

チャイコフスキー「幻想序曲『ロメオとジュリエット』」
ディエゴ・マテウスの日本での初公演。オーケストラが音あわせをする前にするすると登場。音あわせはオーケストラに任せて、さっそうと登場してさっそうと始めて欲しいところ。指揮者が登場したら音楽はすぐに始まると構えていたので拍子抜けする。

コンサートマスターの小森谷巧は時に椅子から飛び上がらんばかりの演奏と指示。矢部達哉がコンサートマスターの隣の席。ヴィオラは店村眞積が2列目。川本嘉子が3列目。

マテウスの指揮は時々所々、彼の個性と感じるところもあるが、これだけの実力者揃いのオーケストラにおける指揮者の役割は?と考えながら聴いてしまった。

ジェスチャーとしては美しい指揮で、身長は高くないがカリスマ性を持つ可能性は感じられた。
しかし、ベネズエラからはドゥダメルがいるし、彼以上かどうか?

バルトーク「ピアノ協奏曲第3番」
この曲のコンサートマスターは豊嶋康嗣。コンサートマスターが曲により交代している。ヴィオラのトップが川島嘉子に代わっていた。
初めて聴く曲。第1楽章と第2楽章は協奏曲と言うよりピアノのためのソロ曲のようである。演奏は伴奏に留まった印象あり。ピアノの音は非常に美しかった。

チャイコフスキー「交響曲第4番」
指揮者は暗譜で臨む。コンサートマスターは矢部達哉。第2ヴァイオリンの1列目が豊嶋康嗣と小森谷巧。ヴィオラのトップも店村槇積に変わっていた。
マテウスの指揮は時々、オーケストラに引っ張られている感じがする時あり。この曲もオーケストラの上手さと音色の美しさが光る。

私はチャイコフスキーの交響曲の中で一番好きな曲だが、新しい驚きを感じるまでには至らなかった。しかし、第3楽章の弦のピチカートは本当に美しい。ピチカートからすぐに第4楽章の大音響になだれ込むところの緊張感はなかなか面白かった(弦楽器奏者は床に置いた弓を素早く取り上げ、第四楽章の最初の音を揃える)。

指揮者のキャリアを見ると、今まで指揮したオーケストラの中で最もうまいオーケストラであったのではないか。2度目だったかのカーテンコールで指揮者が団員を立たせようとすると矢部さんが、「いえ、あなたの評価ですよ」と辞退する場面などは「胸を貸してやる」というゆとりの雰囲気がありほのぼのした。

上手いだけで主張のある演奏ではないとの批判もあるかも知れないが、この日については演奏の上手さに満足し1曲毎にコンサートマスターが代わるというフェスティバルらしい楽しみも得ることが出来た。

前日の「中国の不思議な役人/青ひげ公の城」の公演後は「単に上手いだけじゃだめだ」と口角泡を飛ばして批判しながら岐路についている若者がいた。
小澤さんが全てを振ることは出来ないという状況の中でこのオーケストラも変わっていかなければならないのだろう。

この公演は運営面で非常に残念なことがあった。
公演会場は松本市郊外にあり、ゆったりした敷地にゆったりとした施設として建っており都会にはないぜいたくな空間。それがあだになる面もある。帰りはバスのチャーター便が出るというので安心して待っているとなかなかバスは来ない。そのうち、バスを待つ人の中から主催者に問い合わせをしたり、タクシー乗り場を見に行ったりする人がいてざわついてきた。ようやく主催者から「チャーター便でなく、9時49分発の路線バスに乗ってもらう。もう1台出してもらうように交渉した」との発言。「もともとチャーター便が出ると言っていたのに今頃交渉という言葉が出てくるとはどういう意味か」と思ったが、何名かの人が主催者にくってかかる場面があり、そのうち罵倒に近い発言になって行った。多くは年配の男性で、パートナーから発言の行き過ぎをたしなめられ収まったが、気分としては皆同じだっただろう。良い演奏を聴いた後で観客をこのような気分にさせる運営というのはおおいに問題。
郊外にあるので通常公演では車で来る人が多いのだろう。フェスティバルの場合の市外、県外から来る観客の数を想定出来なかったのかも知れないが、チケット販売数から計算すればどれだけバスが必要かはある程度分かるのではないか。「前年はちゃんとやっていた。今年はどうしてそれが出来ないのか。いったい何年やっているんだ」との罵倒の声もあった。

また、このフェスティバルには運営のためのボランティア組織がある様子で微笑ましいが、20年の歴史があるにも関わらず前年の反省点などが活かされているのか、チェックリストやQ&Aを共有しているのかと疑問に思う面もあった。ボランティアが自信を持って対応出来るようにそのようなことを積み重ねて欲しい。既に実施しているとしたらそれは弱すぎるのではないか。

まつもと市民芸術館・主ホールではドア毎に係がいて案内する欧米スタイル。チケット確認、プログラム渡しの係がそれぞれいるが入り口のところでいろいろなことを聞く人がいるらしく列がなかなか進まない。チケット確認・プログラム渡しはそれに徹する必要があるし、質問に手早く答えられるようにしておく必要があるだろう。

長野県松本文化会館では高齢者や足の悪い方がエレベーター/エスカレーターについて、あるいはトイレについて問い合わせしていた。当然聞かれるような内容であるにも関わらずきっちりした案内が出来ていない様子だった。

昼は松本市美術館で土門拳の写真展を観た。
戦争の世紀の日本人の貧しさを描いたシリーズがあった。また、プログラムには齋藤秀雄の歩みについての記事があった。これらを観たり読んだりして日本の経済や文化の成長の歴史を経て団員は国内外で活躍し、名を知られた人も多く存在し、楽器についても良いものを持っているということに思いが及んだ。日本は土門拳の写真や齋藤秀雄の苦労からは考えられないような立ち位置である。そして、新興国からの才能ある指揮者を迎えての演奏。新興国のオーケストラが世界で活躍する日も来るのだろうか…などと思いながら聴いた。
(写真展では昭和30年前後の日本の子どもたちの貧しい姿、戦争中の泰明小学校での出征式などの写真が印象的)。

美術館では「サイトウ・キネン・フェスティバル松本20回記念展『20年の軌跡』」という写真展を観た。多くの貴重な20年の歴史を示す写真があるが、展示には工夫がなく、「ただ並べました」という展示になっていたのは残念なところ。誰かキュレーターのような立場の人がいれば…。エディプス王とフィガロの結婚の衣装が展示されたのは興味深い。公演チラシ、公演プログラムにはこの記念展のことは紹介されていない。せっかくのフェスティバル企画なのだからうまく連携してしっかり情報発信して観客を誘導して欲しいものである。

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