2017-10

旅行日記 第2日
12・7(金)大野和士指揮「ウェルテル」

  王立モネ劇場

 大橋マリさんに案内していただき、この日だけブリュッセルに向かうことにした。パリ北駅から高速列車THALYSで約1時間20分。「コム・シェ・ソワ」という、あのイザイゆかりの伝統あるレストランで昼食を共にし(なるほど美味しい!)、私の方はあのトスカニーニも滞在したというメトロポール・ホテルに宿泊するが、いずれも現地に詳しい彼女にアレンジしてもらったので、予想外に安い仕切り値(?)で解決したのが有難い。今回はパリでもブリュッセルでも、大橋さんには大変な世話になった。

 「ウェルテル」は、8時開演。
 大野和士さんの指揮は、この作品のイメージを一変させてくれるような、すこぶる興味深いものであった。端的に言えば、これほどオーケストラが登場人物の感情の変化や、人間模様の状況の変化などをリアルに描いた「ウェルテル」の演奏には、これまで出会ったことがないほどだ。それゆえ、マスネの音楽の甘美な印象は払拭され、壮絶な悲劇性がオペラ全体を覆う。

 前奏曲からして不安な感情をかき立てる劇的な演奏であり、第4幕への間奏曲にいたっては、ウェルテルの破滅を先取りして描くように激しい。その赴くところ、オーケストラの音色は荒々しくなり、ケバ立ってギザギザした表情になる。マスネの音楽にありきたりの甘さを求めるオペラ・ファンには我慢できないスタイルかもしれないが、「レジー・テアター系演出」ならぬ「レジー・テアター系指揮」ともいうべきこの解釈は、私には最高に面白いものだった。
 言ってみればこれは、既存の作品についた手垢を洗い落とし、新鮮な意味を見出そうとするアーノンクールや、ノリントンや、ハーディングらと軌を一にするスタイルと称してもあながち見当はずれではないだろう。

 演出のガイ・ヨーステンが、これまた非常に動きの激しい、リアルな人間の葛藤を描いて、スリリングな舞台を創っている。シャルロットと、彼女の夫アルベールとの確執が普通の演出以上に強調されるために、ウェルテルとの三角関係がより明確に浮かび上がる。
 第3幕の大詰めなど、夫妻がもみ合った結果、混乱したシャルロットが夫にピストルを突きつけて脅し、隙を狙ってピストルを奪い取ったアルベールが妻を突き倒し家を飛び出して行き、それを彼女が必死に追う・・・・といったように、ト書きにはない緊迫した演出が取り入れられているのが面白い。
 ウェルテルを歌ったアンドルー・リチャーズというテノール(私は初めて聴いた)もドン・ホセみたいに激しい感情を迸らせる演技をする人なので、この舞台は終始緊迫した雰囲気を持つ結果となっていた。これらも、ありきたりの「ウェルテル」演出とはかなり違う性格のものだろう。
 そしてこれがまた、大野和士の創る音楽と実に見事に合致した舞台となっているのである。
 
 大野和士の活躍は、このところいよいよ盛んである。日本のファンは、小澤征爾だけでなく、大野の活動にももっと目を向けるべきであろう。

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