2020-04

4・10(日)東京・春・音楽祭 チャリティー・コンサート
ズービン・メータ指揮NHK交響楽団の「第9」

  東京文化会館大ホール  4時

 こんな状況の中、よく来てくれたマエストロ・メータ!――という聴衆の気持が沸騰したような会場の雰囲気。
 当初は予定も無かったのに、わざわざ1回のチャリティー・コンサートを指揮しに飛んで来てくれたとあれば、なおさらである。

 メータが登場した時から、すでに上階席からはいくつかのブラヴォーが飛んだ。最後のソロ・カーテンコールも、2回繰り返されたのはめずらしいことではないけれど、雰囲気そのものが普通の演奏会とは全く違っていた。
 彼が日本でこれほど熱狂的に迎えられたことも、おそらく初めてだろう。

 来日を取り止める外国人演奏家の多さに対し、先方の心理を考えれば仕方がない――と理屈では解っていても、なぜもっと外国が冷静に日本の状況を判断してくれないのか、という口惜しさは、だれもが内心で抱いているだろう。今日の客席の反応は、その本音が別の形をとって噴き出た一例と言えるかもしれない。

 コンサートでは、メータの提案で全員が黙祷したあと、犠牲者追悼のためにバッハの「アリア」(管弦楽組曲第3番より)が演奏され、次いでベートーヴェンの「第9交響曲」が演奏された。

 この「第9」は、「アリア」のあとの拍手が無いままに、しかもメータが指揮台に留まったまま、沈痛な雰囲気に包まれた中で演奏が開始されたので、音楽にも通常とは違ったイメージが生れたのは確かである。
 いつもなら、冒頭から一種の祝典的な雰囲気が感じられるところだろう。が、今日はこの第1楽章は、異様にデモーニッシュなものに聞こえたのであった。

 ・・・・しかし、「ニ短調」のこの楽章は、本来はこうした性格のものであろうと思う。
 私はかつて――「第9」のことなど全く知らなかった子供の頃だが――この第1楽章を初めてラジオで聴いた時、言い知れぬ恐怖感を抱いたのを記憶している。まっさらな感性にとっては、第1主題や展開部の音楽は、恐ろしいほど悪魔的である。スケルツォだって、そうだ。

 その魔性が、フィナーレにいたって卓越したポジティヴなエネルギーに変換されるところに「第9」の凄さがあるのは事実だが、・・・・そもそも「歓喜への頌歌」だけに重点を置いてこの「第9」を聴くのは如何にもイージーではないか、ということを、はからずも今日は問い直されたような気がする。

 といってもメータの指揮は、殊更に悲劇的な要素を押し出したものではない。だが、すこぶる集中力に富んだ堅固なもので、第4楽章での推進力は強靭なものがあった(ティンパニのパートが面白い)。
 東京オペラシンガーズの合唱は非常に強力で、NHK交響楽団もこれに煽られたか、第4楽章では演奏にもいっそう気合が入ったようだ。

 声楽ソロは並河寿美、藤村実穂子、福井敬、アッティラ・ユン。
 バスは少々大味だったが、ほかの3人は素晴らしい。特に藤村が出演してくれたのは、嬉しい驚きだった。アルトのパートが今回ほど明晰に、しかも揺るぎない安定感を以って聞こえたのは、初めてである。しかも彼女が、合唱が歌っているさなか、まるで一緒に歌っているように口を動かしていたのも印象に残った。
 

コメント

メータはダルな録音(CBS)のせいで、録音大国のわが国では評価が低い。
しかし、・・・昨日の渾身の指揮、N響のゴリゴリした響き!素晴らしい。
フィナーレコーダのティンパニのクレッシェンドも見事!(久保さん)

東条先生こんにちは。メータ指揮で藤村さんがソロという「第九」は、2001年にバイエルン国立歌劇場来日公演の「特別演奏会」でも実現していたのを懐かしく思い出します。正直に言って、メータはあまり好きな指揮者ではないのですが、その時の演奏で「ああ、この人は向日的な指揮者なのだな」と思ったことでした。
 その時の、ブリン・ターフェルの圧倒的な声量はまだ耳に残っている気がするほどですが、第九のアルト(メゾ)のパートで泣きたくなるような感銘を受けたのは、このときの藤村さんが初めてでした。あいにく今回は聴くことができませんでしたが、どんな第一楽章だったのだろうと、御評を読みつつ想像しています。

レクイエムのような第九

こんな言い方をすると誤解を受けるだろうか?
この度の第九はまるでレクイエムのように思えた。
第四楽章も決して祝祭的な響きでなく、悲しみや運命のようなものが感じられた。あの迫力ある合唱は歓びの歌だったのだろうか?
第一楽章も厳しい音楽で、私にはリベラメ(怒りの日)に感じられました。
素晴らしい演奏でメータには感謝の気持ちでいっぱいです。

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