2017-09

3・6(日)びわ湖ホール プロデュースオペラ 
ヴェルディ:「アイーダ」

  滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール  2時

 芸術監督・沼尻竜典が指揮するびわ湖ホールのプロデュースオペラ、今年はヴェルディの「アイーダ」だった。
 これは「ばらの騎士」や「トゥーランドット」「ラ・ボエーム」などに続くシリーズであり、あの「サロメ」や「ルル」「トリスタンとイゾルデ」などの「沼尻竜典オペラ・セレクション」とはまた別のシリーズに属するものだ。
 いずれにせよ、このような大作を、地方都市の歌劇場が主導権を執って毎年定期的に制作し、しかも非常な高水準を示して成功を収めているというのは、日本オペラ界における一つの偉業である。前芸術監督の故・若杉弘によって築かれた基盤は、立派に受け継がれ発展させられているといえよう。

 今回の「アイーダ」は、粟國淳の演出、アレッサンドロ・チャンマルーギの装置・衣装、笠原俊幸の照明等によるプロダクション。
 舞台は比較的シンプルながらも要を得て、立派な雰囲気を持ったものである。各場面にそれぞれ全く異なった構図を与えているのにも感心させられる。輝かしい黄金色を基本にした前半2幕に対し、暗い色調で後半2幕を構成したことも、ドラマの本質を的確に表わしているだろう。

 アムネリスの居室(第2幕第1場)では、カーテンに美しい光が当てられ、「アイーダ」の舞台としては珍しいような宮殿的な光景が創られて、ここはドラマ全体の流れの中で異彩を放つ効果を生んでいた。
 また第1幕では、柱や壁面や小道具の眩い黄金色と、女性たちの漆黒の髪とが異様に鋭いコントラストを作り出していたが、これはかつて映画の中でよく使われた「異国的表現」の手法にも共通して、非常に印象的な視覚効果を醸し出していた。

 演技の上では、いわゆるイタリア・オペラ的な、様式的なスタイルが優先され、それほど心理ドラマ的な表現は見られない。ごくオーソドックスな安定路線というべきものであろう。
 唯一、一風変わった設定といえば、祭司長ラムフィスの人格設定だろうか。普通なら冷然として動じず、威厳を備えたこの役が、今回は不思議に軽い。ラダメス(第2幕第2場)やアムネリス(第4幕第1場)の大胆な発言に対して妙に動揺し、配下の祭司たちの同意を求めるような仕草を行なうといった、頼りない政治家じみた動きをする。面白いけれども、この役に特有の不気味な威圧感が無く、主人公たちの生命を左右する存在としての迫力に不足するので、何かピリリと来ない・・・・。

 指揮はもちろん、沼尻竜典。彼のことだから、大スペクタクル・オペラとしての要素はあまり強調しないだろうと予測したが、事実その通り。派手な第2幕の「凱旋の場」よりも第3幕のアイーダ、アモナズロ、ラダメスの3人の心理を見事に描く音楽の方をクライマックスとしたのは、このドラマの本質を衝いたコンセプトで、納得が行く。
 それでもやはり、全体としては、極めて抑制した音楽づくりと言えるだろう。オーケストラ(京都市交響楽団)が実によい音を出すので、叙情的な美しさは確かに発揮されていたが、作品の性格からして、もう少し「最良の意味での劇場的な俗っぽさ」があってもいいのでは、という気もする。端正な沼尻――というイメージが久しぶりに甦ったのは、そのせいかもしれない。

 たとえばヴェルディは、アイーダやアムネリスが激情に任せて口走ったことをハッと自制して後悔する時、音楽が突然なだれ落ちるように激しく変化するといった手法を使っている(第2幕や第4幕)。
 そういう個所などでは、音楽が流れるように移行するのではなく、もう少し劇的な演奏が行なわれた方が、生き生きと緊迫した人間のドラマが描き出されるのではないかと思うのだが如何?

 主要歌手陣は、ダブル・キャストである。
 今日の横山恵子(アイーダ)と清水華澄(アムネリス)は熱演で、声もよく伸びる。が、旋律的な音階の動きにもっと明晰さがあればと思われるし、場面によって出来にムラがあるのが課題か? 横山は、アリアの時には不安定さが残るが、ベテラン男性歌手との二重唱になると俄然良くなる。清水は、今後が楽しみな大型新星だ。

 一方男声陣は、福井敬(ラダメス)と堀内康雄(アモナズロ)がさすがの貫禄だ。第3幕では、それぞれ自分の「決め所」を、ここぞとばかり鮮やかに、劇的に盛り上げて存在を誇示した。この第3幕が音楽的にも全曲の真のクライマックスたりえたのは、この2人のベテラン歌手の存在のおかげもあった、と言えようか。
 特にイタリア・オペラの分野で国際的にも年季を積んだ堀内の歌唱には、まさにイタリア・オペラそのものの雰囲気があふれていたのであった。

 その他、ラムフィスには小鉄和広、エジプト国王には斉木健詞、巫女に中嶋康子、伝令に二塚直紀。
 合唱(びわ湖ホール声楽アンサンブル、びわ湖県民合唱団、二期会合唱団)は、テノールに破綻があった(第2幕、凱旋の場)ものの、全体としては極めて出来がいい。特に女声合唱は優れていた。
 バレエは、谷桃子バレエ団の他に滋賀洋舞協会(子どもバレエ)が参加していたが、いずれもなかなか良かった。

 各幕のあとに休憩が入る。終演は5時45分頃。
 このプロダクションは、びわ湖ホール、神奈川県民ホール、東京二期会、谷桃子バレエ団、神奈川フィルの5者共同制作の由。

     ⇒モーストリークラシック6月号

コメント

おお~っ、ついに東条センセ、びわ湖にも再び出没されたのですニャ!このアイーダ公演は猫も応援していたニャり。観にいってニャいので申し訳ないが。センセの日記見てるとどれも聴きたかったと思うが、どうも猫にはそうもいかニャい。ねずみでもとって、チケットと交換できるニャらにゃあ。んっ?最近はねずみもおらんか・・・

別キャストの初日は…

ご覧になった日曜日には行けませんでしたが、職場の別部署のMさんからこの日の様子は聞きました。エジプト風パスタではなく京風ラーメンだったと、禅問答のようなお知らせでした。うーん、これはどう解するのか、難しすぎます。
私は前日の初日を観ておりますが、両日とも観て比較できたら、とても興味深いものだったろうにと残念でなりません。
横浜での別キャストの公演をご覧になるのでしたら、その比較での論評を期待しております。初日の公演、当方の印象はURLご参照ください。

私は日曜日には行けませんでしたが、金曜日の同じキャストのゲネプロと土曜日の別キャストの本公演を観に行きました。ゲネプロと本公演を比較するのは酷かも知れませんが断然土曜日のほうがよかったです。特に女声の並河寿美(アイーダ)と小田由実(アムネリス)が最適役でした。

地震の影響で神奈川公演中止とのこと、残念だニャあ。でもびわ湖公演がすでにあって、よかったともいえる。

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