2019-09

2019・9・28(土)ハインツ・ホリガー指揮大阪フィルハーモニー交響楽団

      フェスティバルホール〈大阪〉 3時

 指揮者&オーボエ奏者ハインツ・ホリガー、80歳記念(?)の日本縦断ツアー。4オーケストラをそれぞれ異なったプログラムで振り分けるエネルギッシュな活動。
 これは先週の札響に続く第2弾で、しかも今日は(オーボエこそ吹かなかったものの)ピアノを弾いてくれたのである。

 プログラムは、相変わらず凝ったものだ。第1部は、ラヴェルの「マ・メール・ロワ」と「ラ・ヴァルス」の間に、自作の「エリス~3つの夜想曲」を挟む。そして第2部はシューベルトの「未完成交響曲」の前に晩年の作品「アンダンテ」を置き、2曲を切れ目なしに演奏するという構成。

 「マ・メール・ロワ」組曲の冒頭から、木管群の演奏に気品のある官能性が備わって、何とも気持のいい音楽が伝わって来る。あたたかいラヴェルだな、と陶然とさせられてしまうのである。抑制された演奏だが、完璧なバランスで構築された音色が素晴らしい。

 次がホリガーの自作。1961年に作曲したという、演奏時間数分の「エリス~3つの夜想曲」を、オリジナルのピアノ・ソロ版と、2年後に自ら管弦楽に編曲した版とを続けて演奏して見せるという凝りようだ。
 まずホリガーが、ステージ下手に置かれたピアノで、自ら弾く。いかにも「60年代の現代音楽」だと思わせる作風ながら、その演奏があまりにも鮮やかで強烈なので、彼の気魄に呑まれてしまう。正直なところ、彼がこの齢でこんなピアノを弾くとは、予想していなかった。凄い人である。
 オーケストラは並んだまま黙って聴いているが、ホリガーのピアノに合わせてコンサートマスターと1番フルート奏者がそっと自分のパート譜をめくり、イメージをつかもうとしている姿が印象的だった。

 そしてホリガーは弾き終ると、小走りに(元気だ!)指揮台に向かい、飛び乗り、今度はオーケストラを指揮して、同じ曲の管弦楽編曲版を指揮しはじめる。この編曲がまた多彩で壮麗で精緻なこと、「現代音楽」の作曲家としても当時注目されていたホリガーの真骨頂が、いま改めて私たちの前に蘇って来る。

 そして第1部の最後は、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」。かなり厳しく制御された演奏で、バランスこそよかったものの、こちらはさすがの大阪フィルも些か自由さに欠け、音楽としては面白味に不足したというのが正直なところだろうか。だがそれでも音色のつくりの巧さは印象的で、自作の管弦楽編成の音色の多彩さとともに、ホリガーの卓越した音色感覚を改めて私たちに印象づける結果となった。

 第2部の最初に演奏されたのは、シューベルト~モーゼル編の「アンダンテ ロ短調D936A」。他界する年に書かれ、未完に終った所謂「交響曲第10番」の第2楽章に当たる曲だ。ニューボールドの編曲版よりも室内楽的な響きが濃い。
 その音楽は、まるで遠い遠い、未だ見ぬブルックナーの世界を予告しているかのような神秘的な曲想で、シューベルトは死の直前に一体どこへ向かおうとしていたのか、何かしら慄然とさせられる彼岸性に満ちたものだ。

 これが暗く消えて行ったと思う間に「未完成交響曲」(同じロ短調)が低いチェロとコントラバスの弱音で入って来るその効果は抜群のものがある。
 この「未完成」も、抑制され、厳しく律せられた感のある演奏であった。ただ、他の多くの指揮者のそれと同様に、第1楽章のアレグロと第2楽章のアンダンテに事実上のテンポの差異が感じられないのはいつも疑問に思うのだが・・・・。
 ともあれホリガーの指揮は、この3つの楽章を通じ、「暗」から「明」への浄化を模索するという解釈のように思われたのだが、如何だろうか。
 そしてまた、「未完成」の第2楽章の終結が、ブルックナーの「未完成」たる「9番」の第3楽章終結を奇しくも予告しているという縁を、今日もまた痛感させられることになった。この2つの曲のエンディングは、本当に感動的である。

 大阪フィルの演奏には、指揮者により厳しく制御されている様子が明確に聴き取れる。ホリガーはたった1回の客演で、このオーケストラを完全に掌握してしまったように思える。
 それにしても大阪フィルは、ホリガーの要求によく応えたものだ。音楽監督・尾高忠明により目覚ましくアンサンブルが整備されて来ている現在の大阪フィルであるからこそ、今回のような演奏が可能になったのではなかろうか。
 コンサートマスターは、この9月から正式にソロ・コンマスとなっている崔文洙。

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

ブログ内検索

お知らせ

●2007年8月以前のArchivesを順次、アップロード中です。併せてご覧下さい。
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2006年8月
2006年7月
2006年4月
2006年3月
2005年12月
2005年8月
2005年4月
2005年3月
2004年4月

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」